【エーリック−出奔−】


・0・


 戦の勝敗は既に決し、追撃戦に入っていた。未遂とはいえラジアハンド国王の暗殺を企て、発覚後は出頭も拒んだ逆臣ドランバーム公の身柄は必ず確保しなければならない。
 逃走する敵将を追っての競うような出撃のなかで、先陣をきったのは今回の派遣の第一軍ワルター最高位騎士軍団内ではもとより、ラジアハンド王国正規騎士団全軍の中でも一際若い分隊の一団であった。
「敵将、もらったぁ!」
 真っ先に飛び出してほとんどがむしゃらに突っ込んでいく小柄な騎士は少年と言っていい年頃である。
「エーリック! あまり出過ぎると危ないぞ」
 背後からかかる仲間の声もまともに聞いている様子がない。
 言われている側からドランバーム公の護衛騎士の剣が襲いかかってくるのを、少年騎士はすんでのところで交わす。掛け声とともに、逆に相手を馬上から叩き落とした。すると、すぐに次が来る。
 その間に逃げようとする敵将へ一騎、、少年騎士の脇から馬を駆って追うのがある。彼らのチーム・リーダーは、それでも二十歳に満たない。
 対決すら拒んで逃げるドランバーム公へ追いついて、彼は大降りの一太刀を浴びせた。落馬した敵将の身柄を押さえると、兜の中から覗くエメラルド・マリンの目は、ようやく護衛騎士たちを切り伏せた一番乗りの少年騎士を振り向く。
「悪いな、エーリック。だからいつも、猪突しすぎるなと言っているだろう」
「……だな。結局また、グレッタの露払いかよ」
 少年騎士は、つまらなそうに舌打ちした。


          ・1・

 ラージバル歴九九一年。“ドランバームの叛乱”はほぼ大過なく幕を閉じた。
 国王暗殺未遂の逆賊とはいえ、計画段階からの露見であったので、出兵規模は山賊討伐などとそれほど変わらなかった。それでも、五国が協調し国家間戦争のほとんど無い時代、こうした対国内出征での功績は騎士団の若い騎士たちにとっては立身、栄達への最短の道であるから、彼らの士気は高い。
 なかでも、二十歳前後までの若者ばかりのこの分隊は、次々に手柄をかっさらっていくという評判があるほどである。
 この頃、後に若くしてラジアハンド騎士団の最高位階級に上り詰めてその名を馳せる二名の英傑の一翼ルンドは未だラジアハンド王国に現れてはいない。いま一方、十九歳のグレッタは個人として、あるいはその評判の若年分隊の一員として、その頭角を現しつつあったが、それでも一種のチーム・リーダー的な分隊長という立場であり、位階としては下級の若い騎士の一人にすぎなかった。
 そして今一人、当時はグレッタと並んで将来を嘱望される若手として、その同じ分隊にエーリック・ステンダーという名があった。その姓名の指すとおり、名門ステンダー領王一門の直系である。当代の孫、つまり世継ぎの子ではあるが、五男では家門を継ぐ宛ても可能性もほとんど無く、穀潰しよりは、と騎士団に身を投じるという、典型的な経緯をたどっている。
 この年、十六歳。今回出征の正規の騎士としては最年少である。
「グレッタは今度こそ間違いなく昇進だよな。いい加減、年がどうとか平民出だからとか言わせないだろ」
 剣に付いた血を丹念にふき取りながら言うエーリックに同じ分隊の騎士バルンが巨体を揺らして苦笑する。
「人ごとなのにやけに熱心だな」
「だって、第三軍のレイドルフ公爵の次男って奴が同い年で、とっくに階級だけは上げてるんだぞ。本当ならグレッタの方が上じゃないとおかしいだろ?」
「確かにあいつより下だと思うと腹が立つけどな……ああ、レイドルフ公爵家って、お前の家のライバルだっけ」
 グレッタは、エーリックが妙にむきになるわけに気が付いて肩を竦める。
「別に……大昔のご先祖の代からずっと仲が悪いだけ」
「だけ、な」
 今度はバルンが、肩を竦めた。
「うちの、第一軍にもその三男ってのがいたな。エーリックがいつも突っかかっていく」
「向こうから喧嘩売ってくるんだろ! その兄貴より弱いくせに自意識過剰で根にもちやすくって性格陰険なんだよ、あれは」
「お前はどうなんだよ、エーリック。兄の方にでも、自分で対抗すれば?」
 これは一つだけ年上のルーカス。
「やろうとしてるよ。敵将は逃したけど、指揮官級の首は二つはとった」
「で? その首でいくつの始末書を相殺だ?」
「……最近やった派手なのは先月の決闘騒ぎだけだぞ。あれだって相手が“女”をとったとかとらないとか、勝手にいちゃもんつけてきただけだし」
 表向きはどうであれ、騎士団もまた、王宮組織の一部である。よほど公正か堅物な上官に恵まれない限り、立身出世に出身の家系が全く関係無いということはあり得ない。まして過去には幾人かの最高位騎士も出しているステンダー家やレイドルフ家のような一門の出であれば点の付き方はさらに甘くなっても不思議はないのだが。
 「嫌だよ、そんな上げ底みたいなの」とエーリックは主張するが、そもそも、手柄の数も多いが始末書沙汰の喧嘩騒動も一番というもっぱらの評判であるから、やっかみ半分とはいえ、騎士団から追い出されない方が功績と家名との賜物である、という見方もある。
 それに、いったい誰がそういうことを教えたものか、最近はいわゆる女がらみまで混ざっていたりする。
「わかった、わかった。じゃぁ喧嘩やそういうのを慎むんだな」
 ルーカスの言い方はほとんど投げやりだ。
 実際のところ、技量の面では成長期まっただ中の十六歳のエーリックが三歳も年上のグレッタについていっているのだから大したもの、と言わなければならない。ただ、下手にほめると図に乗るものだから仲間たちの扱いはどうしてもこんな風になる。
「喧嘩やめるなんて、無理だって、絶対」
「そこまで力いっぱいに断言しなくてもいいだろう、お前」
 グレッタは、呆れた様子でそう言った。


          ・2・


 ちょっと散歩、と言ってエーリックは剣を持ったまま外へ出た。戦の本営として間借りしている村のはずれ、野営の天幕群を少し離れたところを目指す。
 人気が無くて、剣の練習のできそうなところを探し出して、虚空へ向かって剣を構える。
 エーリックは人前に努力だのなんだのをさらすのは格好が悪い、と思っていた。目標を団内の同階級の模擬試合で唯一、一度も勝てないでいるグレッタに勝つことに据えて、それこそがむしゃらに追いつこうとしているものの、それで必死になっているのを人前にさらしたくない。良く言えば少年らしい、つまりは子供っぽい感覚である。
 小一時間ほどもした頃、静かな練習場に人の気配を察して慌てて剣を納めてしまう。その正体を探し当てて、エーリックは憮然とした。
「……なんか用か」
 ドーズ・レイドルフ。ついさっき話題にしていた、レイドルフ家の三男。
 目の前に立たれてお互いに態度が険悪になるのはそれこそ、ご先祖様の代からの慣習ともいうべきものだ。もっとも、もう少し年が上がってくると表面上はお互い笑顔で仲が良さそう、というもっと怖い取り合わせになるときもあるのだが。
「別に。歩いてたら、少しの手柄いい気になってるステンダーの馬鹿を見つけただけだ」
 エーリックはむっとして、それから不意に悪戯っぽい笑みを浮かべた。どうせ練習なら相手が居た方がいいよな、などと口の中で呟く。
「嫉みたい気持ちはよーく判るぜ。少しの手柄も立てられなかったんだもんな、お前は」
 相手の顔が歪む。剣に延びる手を見て、エーリックはほくそ笑む。挑発成功。
 剣の練習台に、ちょっと痛い目を見せてやれ、というくらいの気持ちだった。
 剣戟はほんの数合。不意に、ドーズ・レイドルフは身を翻した。
「あ、逃げるなよっ!」
 反射的に、エーリックは追いかける。
 後先考えずに敵を追いかけようとするな、とか、猪突猛進しすぎるのがお前の悪い癖だ、とか、バルンやグレッタにはしょっちゅう言われている。このときも、少し考えれば相手の様子がおかしいことが判ったのかも知れない。
 ドーズは軍の天幕の方へ戻っていく。彼が向かっている、一番はずれにあるのはたしか、敵軍の一般兵士の捕虜の天幕。その前で不意に立ち止まったドーズはひっそりとした笑いを漏らした。
「面白いものを手に入れたんだ」
 なんだか様子がおかしい、というのに、エーリックはいまさら気が付いた。行動がどうこうというよりも、ドーズの仕草とか、目つきとかが明らかに異常だ。
「お前、生意気だからな。そういう奴に痛い目をみせてやる、強くなる薬だ」
 意味を計りかねているうちに、相手が取り出したのは香炉だった。そこから、胸が悪くなるような甘い香りが漂い出す。
 視界が歪んだ、とエーリックは思った。ドーズの姿が揺れた。



          ・3・


 化け物。
 そんな言葉が頭をよぎる。ドーズは変身した。いや、外見そのものは代わりがない。だが、まず顔付きが変わった。牙とか角とかが生えていないのが不思議なくらいの人離れした形相。
 そいつはぐるぐると喉を鳴らして抜刀し、エーリックに襲いかかってきた。
「ど、ドーズは所詮、ドーズだろっ!」
 動揺に負けまいと声をだして、それを剣で受け止める。その力が異様に強い。完全に負けることはないが、かみ合った剣が重い。耐えかねて、エーリックは見計らってその剣をはねのけて逃れた。
 ドーズは、いや、ドーズを核にした化け物は啼いた。そうして向かってくるのかと思ったら、そいつはくるりと後ろを向いた。天幕の中へ入っていく。
 内心、少しほっとした。が、それもしばらくの間だった。見張り兵に叩き出されるか何かしてくるだろうと思っていたドーズの化け物はなかなか外へ出てこない。天幕の中から、かすかに悲鳴らしきものが聞こえたような気がした。しばらくして、訝しんで、天幕の中を覗いてみて、絶句する。
 捕虜を収監した天幕。そこには十数人の拘束された捕虜と、見張り兵数人が中に居た、はずだ。
 肉塊と、血溜まりと、居るはずの半数以下の怯えた人間。
 そして、それを食っているのが居る。ほかでもない、ドーズだった化け物。
 つい昼間、戦場にいたのだ。それ以前にも、何度も経験している。戦は死体を作り出すものだし、血の臭いにも慣れているるもりだった。
 それでも、それは気持ちの悪い光景だった。
「冗談……だろ」
 口元の血を拭いながら立ち上がって、ドーズがこちらを見る。
 騎士団員としての出動中は、命令の敵軍以外は何者であれ、殺生沙汰は軍規に違反する。軍規違反の最高刑は当然、極刑である。
 その軍規と、このドーズの今の様子とさっきの力を思い出して、エーリックはひやりとした。
 この化け物を追い払うとか、捕らえるとかができるか、と自問する。即答できる。無理だ。
 仕方がない。エーリックは決断した。
 剣を構える。機会は一度だけ。それを逃したらたぶん、決着どころかこちらが危ない。
 ゆらりと、ドーズが動いた。静から動への、この瞬間が一番、無防備になる。
 エーリックは血溜まりの地面を蹴った。相手の胸へむけて、剣を垂直に立てる。
 鈍い音がした。鮮血を吹き上げる胸の横の手が、両手でもって剣を突き立てるエーリックの左の腕を掴んだ。それがじきにゆるんで、ドーズは地面に崩れ落ちた。


          ・4・

 事件の発覚そのものは早かった。直後にエーリックが上官に直接申し出たからである。
 だが、その後の処理は混乱、というよりは困惑を呼んだ。
 エーリックとドーズ、というよりは高位の二家、ステンダー家とレイドルフ家という問題に発展したからである。
 下手な露見の仕方をすれば王国重鎮の家名に傷が付きかねない、ということがある。それに確執の深い、強い力を持った大貴族家同士である上、こうした、どちらが悪いとはっきりとは断じきれない状況では最悪、一歩間違えれば報復などから二領土間の戦争などという事態にすらなりかねない。
 エーリックはさしあたり自宅謹慎を申し渡されて親元へ送り返された。解決は騎士団の軍事裁判ではなく、二つの大貴族の方へと引き取られていった。
 そして事件そのものは、戦場でのことですでに不明確な噂になってささやかれはしたが、形としては隠蔽されたようになった。
 父や、領主である祖父がおそらくは政治的な取引き込みで奔走しているだろうころ、当のエーリックは完全に蚊帳の外でふてくされたようにしていた。とにかく口外するな、おとなしくしていろ、と方々からしつこく繰り返される。始めのうちこそ反省しておとなしくしていたのだが、三日も繰り返されるうちにはだんだんとそれも薄れてきてしまう。
 一度、二歳年下の母方の従妹のアーリンが訊ねてきた。父方から見ても又従妹くらいにはなる彼女は将来、領主の第一位の側近と護衛をかねるビショップ格ソーサレスになるべく修行中の身で、ステンダー家から見ればある意味で、エーリックなどよりよほど重要人物である。
 その修行のために朝から晩までほぼ毎日、ほとんど缶詰状態と聞いていたその従妹が訊ねてきたのには、少し驚いた。
「お師匠様がね、一歩間違えば戦争の原因のバカの顔を一度見ておいで、って」
 抜け出してきてよかったのか、と訊ねると、彼女はそう答えた。
「お師匠様から伝言があるんだけど、聞く?」
「どうせろくなことじゃなさそうだけど、一応聞いておく」
「『単純バカの定評が高くて良かったね。下手な利口者だと思われてたら味方はもっと少なかったよ』だって」
「……余計なお世話だ、クソばばあ、って言っとけよ」
 心当たりがあるだけになんとなく腹が立つ。他言無用、ときつく言い渡されたから、事情を知りたがる同じ分隊の仲間たちにも何も言えなかった。噂では捕虜を虐殺しただとか、いや殺されかけたのだとか、さっぱり要領を得ない、と訊ねてくるグレッタやバルンたちにも「秘密」の一点張りで押し通すしかなかった。
「たぶん、虐待とか虐殺だけはないだろう」
 それでも、彼らはそう言ってくれた。
「あ、その辺は信用してくれるんだ、嬉しいな」
「だってエーリックは無抵抗なのを殴る蹴るなんて陰湿なのじゃなくて、喧嘩そのものが楽しいんだもんな。カッとしたって弱い者いじめだけはできないだろ」
 そもそも、そんな陰湿になれるほど複雑な頭してないもんな、お前、とはルーカスの言である。



          ・5・


 ようやく結論が出て、エーリックが騎士団の営舎に顔を見せたのは十日後のことである。
「グレッタ、昇進決定だってな。おめでとう!」
 お詫びと説教行脚の帰り道だというが、それほど消沈した様子はなかった。
「始末書って一等上の、最高位の団長のところまで行くんだな。知らなかった」
 何を今さら、とバルンは軽くため息を吐く。
「何か言われたのか?」
「お前がいなくなると月に十枚は目を通す始末書が減るな、寂しいよ、なんて嫌味言われた」
「……そんなに出してたのか、お前」
 と、ルーカス。
「休暇で街に出たときに首突っ込んだ乱闘沙汰とか売られた喧嘩も込みだもん」
「やるならやるで、見つからないように要領よくやれよ」
 言ってから、ふとグレッタは眉をしかめる。
「いなくなる? 懲罰転属か?」
「あれ? 聞いてない?」
 言われて、エーリックはきょとんとした。
「俺、捕虜虐待の軍規違反で騎士号剥奪と除隊処分」
「……え?」
「明日付けで。今日ってその挨拶まわり。そういうことになったから」
「だって、虐待ってお前……」
 お前にはそもそも無理だ、と言っていたルーカスがつかみかかるように言う。
「もうちょっとで“虐殺”にされるとこだったんだぜ。そうしたら騎士団どころか城や王都から永久追放扱いに近かったかもしれないけど。
 レイドルフ家のじじいがしつこくてさ。うちのビショップ格のソーサレスの方の婆さんががんばって交渉してくれて、非公式には非はドーズの方って認めさせたからって。
 まぁ、それでお爺さまや父上たちの立場が有利になるみたいだし」
 直接は答えずに、エーリックはそんな答え方をした。
「じゃぁ、ほとぼりが冷めた頃に復帰、か?」
「それこそお爺さまに駄々こねればさせてもらえると思うけど……」
「するんだろう?」
 騎士団の仲間同士、そこには同じく国王に忠誠を誓い剣を捧げる同士、という意識も存在する。
「……騎士号剥奪と一緒に捧剣の誓詞も撤回扱いになっちゃってたりして」
 復帰しても一からやり直しだもんなぁ、と自暴自棄気味に笑う。
「やり直せばいいだろう。俺の年にまでだって、お前ならまだ三年あるんだぞ」
 グレッタに言われて、うーん、と考え込むふり、のような仕草をする。
「家出でもしてみようかなぁ。今ならうちの連中も誰も止めないような気がする」
 ルーカスが吹き出す。
「武者修行とか言い訳する気だろう、エーリック」
「どこかの怪物退治でもしてブルーリスト入りでも目指すか?」
「あ、いーなぁ、それ」
 言い方がふざけ気味だったので、誰もがまったく本気にせずに笑っていた。


 エーリックが本当に家出をしてしまったのは、このわずか三日後である。グレッタが伝え聞いたところによると、『ちょっと武者修行に行って来ます』という書き置き一枚を残していなくなっていた、という。
 ステンダー家では鷹のウェノで、「せめてどこにいるか知らせろ」という手紙も何度か送ったが、全て鳥だけが送り返されてきた。送った手紙が無くなっているということは生きているには違いない。鳥よけのレオを持っていったというわけでもなさそうだし、本当にいざというときには連絡がつくのだろう、ということで、それからはもう諦められてしまった。
 やがて、どこそこの盗賊討伐に参加した傭兵隊の少年が大手柄を立てたものの上官と大喧嘩をして飛び出したそうだ、とか、クラリアットのコロシアムで本戦もそこそこだが場外乱闘で名を上げている子供がいるそうだ、とかいう頭痛のするような噂の主の特徴が、エーリックをよく知る者にはいちいちそれに符号する、というようなことが出てくるようになった。それでも彼らはその噂を敢えて王宮で振りまくような真似はしなかったので、少なくとも王宮社会の中からは、じきにエーリック・ステンダーの名前は消えた。
 そのうちにはエーリックもたまにふらりと顔を見せに帰ってくるようになるのだが、ほとんどはこっそり、というふうだったので、その名は忘れ去られたままになった。


 後年、さらに階級を上げて軍でのある程度の権限を得たグレッタは、自ら手配してエーリックを騎士団の自分の麾下へ復帰させようとしたことがあった。ところが、そのころにはすっかり放浪生活が身に染みついていた当の本人が、笑って拒絶した。
 曰く「今は好き勝手やってるからさ、下手に部下にするとその癖で、また問題起こすぞ、きっと」

 ステンダー領を疫病が襲って領主一族のほとんどが倒れ、血統順の繰り上げでエーリック・ステンダーが領主の世継ぎとなったのは、そのさらにもう少し後のことである。



【エーリック−出奔−】― 了

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初稿:2001年5月頃
改稿:2004年12月12日