記憶の底に












―悲しい悲しい出来事は・・・昔々の話なり―


何百年の昔、恐れられていた獣人がいた。
それは民を脅し・・・民を恐怖に知らしめた化け狐であった。

だが、それは人間の思考・・・人間の恐怖心 そして口から口への噂に過ぎなかっ
た。
化け狐と呼ばれる狐はストレシア国を守りし神の使いのモノであると言う事を知る者
は・・何千人に一人というほどであった。その狐の毛並みは銀が目立つ毛並みをして
いた。
彼が守りし国、草木が少ないまだ緑が残っていたストレシアのこと・・・・。狐は、
ある洞窟の上でいつも国の周りを見て平和を守っているつもりだった。だがそこも、
暗狩りの洞窟と呼ばれ恐れられていた。それでも狐は気にしなかった・・・何があろ
うと、人間が狐を受け入れようとしなくても、それでも狐はこの国を守る事を心に決
めていた。
それが定めであろうとも――・・・・。

『・・・・・。』
狐はいつものように吹いてくる風に体をあずけ、洞窟の上で涼みながらストレシアの
町という町を見下ろしていた。
『いい風だ。』
そんな時、狐をしたう狼が一人の女を背中にせおいやってきた。
『狐よ・・・人間が道端で倒れておったぞ。』
『何処の者だ・・・?』
狐は洞窟から飛び降りて狼の元に行く・・。
『さぁ、私には分からぬ。』
狼はそう言うと狐のまえに女を置き、そのまま来た方向に歩いていってしまった。
その女は・・肌が黒く、薄い服を着ている・・まるで踊り子のようであった。
『人間か・・・・。』
その女を洞窟の奥へと入れた、洞窟は風通しが良いのだ。
狐はそっと女を洞窟の中に寝かせると、また外に出て洞窟の上に座り込むのであっ
た。

「う・・・・・。」
女が目を覚ますとそこはあたりが壁であった。
「え、何!?」
声は洞窟の中を木霊し、狐の耳にも届いた。
声を聞きつけた狐は洞窟の中にやってきた。
『大丈夫か・・・?我は――。』
自分のことを話そうとした時、女が驚き声を上げた。
「ば、化け狐!?」
『・・・・・・!』
そう言われた狐はまた話しかけようとしたが、彼女がビクついて話を聞いてくれるよ
うな状況ではなかった。なので女が目をそらしているうちに自分に力を使った。
「すまない、驚かせるつもりはなかったのだ。」
少し悲しそうで優しい声、女はゆっくりと振り向いた。
そして見た姿は、人間であった・・・いや、人間ではないブロンドの髪に銀白のの狐
の耳がヒョッコリ出て長いシッポがある。
「あ・・・あんたは?」
「我は狐だ・・・皆には化け狐と呼ばれておるがな。尋ねたい、何故ゆえ我を恐れる
のか・・・それは姿のせいなのであろうか?それとも・・・。」
姿のせいにする理由は普通の狐と違い獣の時は熊よりデカイ。
それはまるで、人を襲う野獣のよう・・・・。
「・・・分からない、気がついたら噂に囚われていた。」
首をひねる様に申し訳なさそうに女が言った。
「そうか・・・噂とは、怖いものだ。」



この出会いは ある者を不幸にし
          ある者を喪わせた。
世界が神の聖物に背いた時、この場所は・・・・滅びに近くなるだろう。



その夜、女は目を覚ました。眠れなくて・・・少し夜風に当たるため洞窟から出る事に
した。
「ふう・・・涼しい、何だかのんびりできるのは久しぶり。」
背伸びをし、空を見上げてそう呟く・・・そして、ふいに洞窟の上に目をやった。
「あ・・・・・・。」
そこには、白月に照らされる狐の姿が・・・銀白の毛並み――金色に光る目・・・、
目を閉じて開くたびに綺麗に光る。体の毛は月の光が当たるたびに何故か金色に見え
る時があった。それは、この世の世界のどこかにある蛍のように・・・・・。風が吹
き、狐の毛を逆なでする。
女は、狐に見とれてしまっていた。
『ん・・・どうした、眠れぬのか?』
狐は人間の姿になり下に下りていった。
「うん・・・少し、風にあたりにきただけだから大丈夫・・・。」
「そうか、疲れているのならちゃんと言っておくれ。」

想像とは違う・・・とても綺麗で――見とれてしまうほど綺麗で・・・そしてどこか
悲しそうで優しい声の持ち主。彼が本当に噂で聞くあの化け狐なのだろうか・・・?


だんだん噂が信じられなくなってゆく女・・・だが、そのままm浅い眠りに入ってゆ
くのであった。








「ん、あれ・・・・?」
女は今、自分が何処にいるのか最初はわからずあたりをキョロキョロしていた。
だが、昨日の出来事を思い出し狐の姿を考えるとドキドキして顔が赤くなってしま
う。
「・・・・・。」
何気なく外に出て彼の姿を探してしまう。
見つからない、そこら辺を歩いているのだろうか?真っ白い朝の光・・・・彼の体の
色が見えるだろうか・・・。そんなことを考えながらあたりを見渡す、すると何か
黒っぽいものが動いた。

「ひ、ひぃぃぃぃぃ、ば、化け狐だぁ!!」
そう言って腰を抜かしているのは黒いローブを羽織ったエルフのようだった。
『お主等は今、何をしておられた・・・この小動物に何をしようとしたのじゃ。』
狐の足元にいるのは、世にも珍しい天然生物・・・『パルネア』であった。
パルネアは、耳はウサギのように長いがたれており先の毛が逆立ったように跳ねてい
る・・・そして、エメラルドグリーンの瞳におでこに赤い点がついているのが特徴
だ。有翼人の仲間だと思うものも多い、その理由に逃げる時は翼を出して空を飛ぶの
だ。
そして、その生物は遠くへと逃げてゆくのであった。
「・・・化けもんが、ひとまず退散だ。気分が悪い・・・帰るぞ。」
一番偉そうなエルフの男がそう言い、手で合図する。そうすると、2〜3人いたエル
フ達は行ってしまった。
狐が戻ろうとすると女が立っていた。
『お主は、そろそろ行くのか?』
嬉しそうでだが、何処か切なそうな目で女を見ながらそう言った。
「・・・うん。」
『お主も、もう倒れるでないぞ・・・狼も気まぐれだ。今度は食われてしまうかも知
れまい。』
「分かってるわ・・・。」
小さな声は、風と一緒に何処かへと散った。
『・・・お主を――。』
また話しかけようとした時、女が叫んだ。
「私には、名前があるわ!」
『・・・・・・・。』
「・・・私、ルウ・・ルウ・クリウス。」
そうルウと名乗る女はそのまま後ろを向いて走っていってしまった。
『・・・・ルウ。』


我は狐・・・主により造られた聖物、我は自然を守るためにやってきた。
 我は何のためにいるのであろうか?主による実験なのだろうか?
そして、胸に刺さるこの気持ちの悪いものは何なのか・・・全ての人が抱きかかえる
思い・・・・とても辛い。我は何の為に送られたのか、とても辛いものが毎日のよう
に胸を押しつぶそうとする・・・だが、今いなくなったらこの国は完全な砂漠化が
待っている・・・・これは我の定め――


何日か過ぎるごとにエルフの群れが色々な場所に現れるようになった。
発見するたびに彼は走る。走って追いかけそして逃げられてしまう。見かけた場所に
は小さな血だまり・・・・・。そのブツを見て彼の気持ちは落ち着かなくなってゆく
・・・・・・。
(あの者は・・・何者か?何故ゆえ・・・自分達の仲間(動物)を滅ぼそうとするの
か?)
意味もなく洞窟の上で考え込むと誰かの呼ぶ声がした。
「き・つ・ね!」
ふと顔を前に向くと・・・見覚えのある黒人の女。
『おお、ルウではないか。』
狐も彼女の顔を見ると少し安心した。
『仕事の方はどうじゃ?安定したか?』
「うん、今は踊り子を頑張ってるわ!」
嬉しそうに話すルウ・・・すると、また狐は真剣な顔をして言った。
『我は・・・・何のためにここにいるのであろうか?今、我は・・・・一つ一つの生
命を助ける事ができておるまい。』
自分を責める狐。
「狐・・・・・。」
心配そうに見てくるルウは、元気な顔で狐に話しかけた。
「そうそう、私聞きたかったの、あんたの名前。」
『!!』
ニッコリと言われ驚く狐・・・。
「どうしたの?」
彼には名前すらない・・・狐と言う“言葉”しか。
『・・・我には、ない。』
「え・・・・・・。」


我は・・・・・なんなのだ。
  我は――。

「だったら、私がつけてあげるわ!」
そう言って狐を見た。
『!』
「そうね・・・・。」
だいぶ前、初めてであった日の事を思い出す。
「ほたる・・・・そう、蛍がいいわv」
笑顔を狐に向けて言う。
『ほ・・・た・・る?』
「うん、蛍・・・・狐は蛍のように綺麗なヒトだから。」
そう言って言葉に詰まる。
『・・・ルウ。』
心が落ち着いてゆく・・・ルウと話すと心が和むのであった。
だが、それもそこまでたった。
『む・・・・ルウ、そろそろ帰るのだ、今日は砂嵐が起こる。』
それを聞き、少し残念そうな顔をするルウだったがそのまま「また来るから」と言い
残し走って帰ってゆくのであった。蛍と名づけられた狐は、彼女が見えなくなるまで
ずっと・・・洞窟の上で見守っていた。






洞窟の中・・・彼は、砂がふぶく空を見上げていた。見上げても仕方がないのだが・
・・・砂だらけの空をずっと見ていた。
『おい、狐・・・。』
そう呼ぶのはあの狼だった。今日は、洞窟に泊まっているらしい。
『なんだ・・・?』
『それは私のせりふだ・・・どうしたんだ?』
そう言われると何かを思い出したかのように笑いを浮かべた。
『何でもない・・ただ、女のことが頭から離れんのだ。』
ぼうっとしたかのようにそう呟いた。
『・・・・女にホの字になるのもいいが、自分の役目・・・忘れるなよ。』
『ああ、分かっているさ。』
『まったく・・・心配でしかたがないぜ・・・お前は。』
こうやって、蛍を支えてくれる仲間がいるのだが・・・何故か彼女だけは自分にとっ
て特別な存在に思えてきていた。


そのころあるストレシアのとある所で黒いローブをまとったエルフ数名が話し込んで
いた。
「知ってるか?あの暗狩り洞窟・・・あそこにはとても大事そうにしまっておる
『宝』があるらしいぜ?」
「本当かよ・・・・嘘くさ。」
わんやわんやと騒いでいる若者エルフ2人は、ある男の声で沈黙した。
「お前らは何も分かってないんだな・・・そのお前らが言っている宝とは――。」
そこまで言っておいて言うのを止めてしまった。不気味な微笑をして・・・・。
「我らは・・・『黒蛇』と力がおなじほど強くなった・・・今の私らは化けもん・・
・いや、化け狐に勝てるさ。」
フードの中から見える赤い目・・・・。それは悪魔と契約をしたもののみにでる印。




その夜、蛍はいつもどおり洞窟の上に座っていた。珍しく空一面の星を見上げながら
・・・・。
『うむ・・・いい星空だ。』
だが、綺麗な星空なのに・・・何か感じるのだ。これはまるで   ―殺気―
『狐!?』
叫び声がした。そちらの方向を見てみると洞窟の出入り口に狼が立っていた。
『どうしたのだ、狼よ。』
『どうしたも何も・・・お前、目が腐っちまったのか!!』
そう言われあたりを見渡してみる、血が流れている・・・狼のではない、黒いローブ
のエルフ・・・。

(いつのまに・・・我は気配に気がつかなかったのか・・・。)

情けない・・自分が嫌になった。慌てて、地面に足をつく蛍。
『このやろうども・・・お前のあれを盗む気だぜ。』
『な、何だと・・・!?』
一人が倒れ 残るはあと2体・・・
「・・・ほう、その狼はきさまの下僕か?」
いやな笑いを浮かべながらあるいてくる男のエルフが一人・・・後ろですくんで歩け
なくなっているエルフが一人いる。
『・・・・・・。』
そして、狼は近づいてくるエルフを敵と認識し攻撃をした。
だが・・・・・。
<ドサッ>
「ふん、ばかめ・・・私に勝てると思っているのか。」
目が気味悪いほどに赤く光る・・・・。
『狼!!!』
 

 ―心配でしかたがなぜ・・・お前は―



我は神により造られし異物に過ぎない存在・・・
  それならば何ゆえ我は存在しなければならないのか・・・・
我は―――・・・・我は―――!


狼は血をジュウタンのようにし横たわっている。
生命の鼓動の音も、もう・・・・蛍にも聞こえはしない。


『・・・・おおかみ・・・我のせいで。』
目から涙がこぼれる・・・・・。
「さて・・・化け狐が持っている『宝』とやらを見せてもらいましょうか?」
笑い方も不気味なエルフ・・・少し経つと蛍も男の方に向きを変えた。
『お主は、あれを何に使うつもりなのだ・・・。』
「ふん・・・化け狐には関係はない。」
『・・・・・・・・。』
少しずつだが近づいてくる・・・・・すくんで痛もう一人のエルフも立ち上がりやっ
てくる。
『お主等がもし、無理にでもこの中に入ると言うのなら・・我は容赦せぬ。』
その言葉が聞こえてないのか・・・彼等は歩み寄ってやってくる。
『我は・・・我は・・容赦はせぬ!』
走って突っ込んでゆく蛍に何か呪文を唱え投げる。
「くらえぇ!!!」
<バシュゥゥゥ>
白い光が蛍を覆う・・・・。
「ふん・・・私に勝とうとするのが間違いなのだ。化け物め・・・・・。」
その光の中から歩いてでてくる一つの影・・・もちろん、蛍だ。
蛍は光っていた・・・・白く輝く光を放ちエルフの男を睨みつける。
「なんだと・・・・そんな――。」
それは次の瞬間・・・見えないような速さで走ってくる。
「!!!」
それを何とか避けるエルフの男だったが・・・後ろにいた若者のエルフはもろに攻撃
が当たった。
「うわぁあぁ〜!」
叫ぶ若いエルフが・・・・。蛍もまた振り向き突進する。
「ちっ! 我の声を聞き――。」
男は呪文を唱え始めた。
そして、蛍も止めずに見えない光で走ってくる・・今度は左腕に大怪我を負う。
「ぐっ・・・・・・!!!!」
だが、まだ呪文を止めない。
『これで・・・・終わりだ・・・そして良い者に生まれ変わるんだ。』
蛍が最後のトドメをしようとしたその時だった。
「まって、蛍!!」
聞き覚えのアル声が聞こえた・・それも女の声。
『・・・・・ルウ。』
「やめて・・貴方は、そんな人殺しではないでしょ?やめて・・・。」
涙をめにためるルウ・・・それに対して胸が締め付けられる思いの蛍
『わ、我は・・・・。』
落ち着きを取り戻した蛍は、体の白い光も消えていった。
すると
「私の勝ちだ・・・化け物が!!」
そう叫ぶ声と何かが2人めがけて飛んできた。
『危ない!逃げるんだルウ!』
そう言い強く突き飛ばした。
「蛍!!」
灰色の光に包まれる蛍・・・・。力が何だか抜けてゆく。
「・・・・ほたる?」
ルウは、ゆっくりと近づいてゆく。
「ふん・・・失敗だったようだな、ぐっ・・・まずは、ここは退散するか・・・。」

怪我した仲間を残し男は去っていった。





我は 何のために――


蛍が目を覚ますとそこは洞窟の中であった。
「う・・・。」
「蛍?大丈夫?」
心配そうに覗き込むのはルウの顔・・・・・・・。
「すまない、お主に心配をかけてしまった。」
「・・・蛍が生きているだけで私、嬉しいから。」
安心したせいか涙を流すルウの頬をにソッと手を置き、ハッと気がついた。
「・・・・・何故だ。意思でもないのに・・・?」
「蛍・・?」
自分が獣でないことにようやく気がつく、姿は人間だが耳と尻尾が残り獣人そのもの
になっていた。
蛍は自分の意思で姿を変えることができる・・・だが、これではまるで。
「・・・・・・。」
つらそうな顔をする蛍をみて不思議そうにルウは聞いた。
「どうしたの、何があったの?」
「我は・・・・力を封じ込められてしまったようだ。」
「力を・・・?」
自分の手を見ながらもの惜しそうに言う蛍。


魔術で封じられた・・・・・

静かな洞窟・・・奥からは水滴の音がする。
「ねぇ・・・蛍?」
「なんだ?」
「あの男は・・・何をしていたの?」
「・・・・・・・・。」
話すべきか話さぬべきか戸惑ってしまう蛍
「ねぇ・・・・。」
ため息をつくとゆっくりと話すことにした。
「我は、この国――ストレシアを守る神獣としてやってきた・・・だが、どこで生ま
れたのか全然知らないのだ。そしてこの洞窟の奥には『幸福の滴』がある・・・その
滴は、持っていれば幸福になれるが 権力・悪心 そういうものがつかむと国が全て
メチャクチャに片寄った世界になってしまう。我は、それを守っていた。だが、何故
か噂のように広がっていった。」
悲しそうに話す・・・。
そして頭を過ぎるのは、友人の死・・狼の事。
「さぁ、ルウ・・・今日は帰るのだ。」
「う、うん・・・。」
ルウは、後ろを何度も振り返りつつ帰って行くのであった。


ルウの故郷・・・カランカ町では人だかりができていた。
「な、何これ・・・、すみません、何があったんですか?」
隣にいた人に尋ねてみた。
「なんか、あの化け狐の正体が分かったらしいんだ。」
「しょうたい・・・?」
すると声が聞こえた。
「私は、この国を困らせている化け狐を封印するために来た、今から封印をしにいこ
うと思う。」
黒いローブに左腕の怪我・・・間違いはない、あの男だ。
ルウは叫んだ。
「嘘つき!それに彼は化け狐じゃないわ!」
叫んだが、それは逆効果になってしまった。
男がフードの中の赤い目を光らせニタリと笑った。
「聞きましたか・・・あの女は、あれと接触があるそうだ。」
<ザワザワ>
町の人が見てくる。

(何・・・?)



「お主、立てるか?」
「あ、ああ・・・まあな。」
今、彼が何をしているかと言うと若いエルフの怪我の軽い手当てをしてあげているの
だ。
「町でちゃんと見てもらうのだぞ。」
「あ、ああ・・・・・。」
焦っているエルフの若者・・・。
「我の顔に何かあるか?」
「いや別に・・・。何故、手当てをするんだ?お前を封印しようとした一味だぜ?」

「・・・別にもう気になどしていない。」
そう言うと壁にもたれかかるのであった。
「あのさ・・・その、悪かったな、あんたの手下殺しちまって。」
慌てて言葉を詰まらせながら謝ったエルフの若者。それを聞いて返事をしないわけに
もいかなくなった蛍。
「すまぬが・・・あやつは、われの友人なのだ・・・昔からずっと。それに・・・お
ぬしが殺したわけではない・・気にするな。」
「・・・そうだな。」
その数分後、だれかの声が聞こえてきた気がした。耳をいように動かす蛍。
「どうしたんだ・・・・化け狐?」
「いや・・・今、誰かが呼んだような気がしたのだが・・・。」
ゆっくりと洞窟の外にでてみると人影が見える・・・それは帰ったはずのルウだっ
た。
「ルウ・・・一体どうしたのだ。帰ったはずでは・・・」
遠くに見えるルウの姿・・・
「だ・・・に・・て・・・・・・・・お・・・・!」
何かを叫んでいるが蛍にも聞き取れない。
ふいに思い近づこうとする・・・。だが、ルウは首を強く横に振った。
動く口はまるで“来るな”と言ってるように感じる。
「ルウ・・・?」
すると
「お出迎えが来るとはね・・・・・化け狐くん。」
ローブをはおいフードを被った男が一人。ルウの隣に現れた。
「・・・・・。」
「さぁ、見るが良い!これが化け狐の正体だ!!」
男が叫んだ事で気がついた・・・後ろにいた人間に・・・恨みがこもった人々が 見
るからには町の一部の人たちだけのようだ。
「うごくなよ・・・おい、グラーナ・・・こっちに来い。」
そう言って若いエルフを呼ぶ男
「・・・・・・・・。」
ゆっくりだが、蛍の方を離れてゆく・・・。
逃げようとするルウの腕をつかんで男は言う。
「さて皆さん・・・私がこの化け物を封印するところをとくとごらんあれ。」
そう言うと呪文を唱え始める・・・蛍は動きたくたって動けなかった。相手の手元に
はルウの姿が・・・・。下手に動いて何されるか分からない。呪文が唱え終わる・・
・・静かに男のてのひらを蛍に向けた。
男は気持ちが悪いほどに笑みを浮かべそして――。
「くっ!」
「な、なにをする!!」
グラーナと呼ばれたエルフが男を押さえた。
「悪いが・・・俺、あんたのこの団体から降ろさせてもらう。」
そのひょうしにルウの手を離してしまう男のエルフ・・・。
「聞け、民の人たち・・・この男はあんたたちが思っていた者より最低な奴だ・・す
ぐ仲間を見捨て、そのうえこの封印が終わったら皆から通貨をまきとるつもりでいた
んだ!」
グラーナは叫んだ。人々もざわついた。
男はグラーナの手を振り払おうとする。
「ほら、その狐連れて逃げな!」
そう言われ頷くルウ だが蛍は動こうとしなかった。
「すまんが・・・我は動く事はできぬ。」
落ち着いた声で淡々と言う。
「蛍?」
「何言ってんだテメー!」
「・・・すまない、2人とも。」
洞窟の前に立ったまま動かない蛍・・・。人々は不思議に思った、なぜ噂と違うのか
・・・噂ではもっと――。
「噂と違うじゃねーか、この嘘つき野郎が!!」
叫び怒り出す人々・・・いい加減な噂を作りつつも、その噂が安定するとそれを信じ
込む。 男は、グラーナから離れると言った。
「ふん、噂に縛られているくせに何を言うか!・・・まあいい、お前らまとめて殺し
てやろう。」
ルウ達をみた・・。
「無論、お前達からだ。」
そう言って指した場所はルウとグラーナ・・そして蛍。
「・・・そんなにしてまで“あれ”が欲しいか?お主の考えはおかしい。」
「ふん・・・・・。」
この男なら殺すと言ったら殺すだろう、男の手には電気のような光がはしりだした。

呪文も着々と唱えてゆく・・・・そして一言、蛍に言った。
「私に仕えるというのなら・・・殺さずにしておくぞ?」
「それは、お主の下で働けと・・・?」
「まあ、そうとも言うな・・・。」
手にはしっている光は、蛍に向けられる。
「その原形も留めておいてやる・・・・さぁどうする?最後のチャンスだ。」
それはあたりをシーンとさせた。
「言わなかったか?我はここを動く気はないのだ。」
「・・・・それは残念、だ。」
光は蛍に向かって飛んできて彼を包み込んだ。
「ほたる〜〜!!」


我は・・・最後まで役に立たぬ神獣であった 皆を守れず 人々に噂と言う迷惑をか
けてしまった 我は神獣として役に立たなかった だが・・・・


蛍を包み込んだ光は、体から飛び出すと洞窟の側にいた者たちに放射能の様にとび
ちった。その光は、あたりをまぶしく照らした。
「な、何だと!」



我は・・・全てを無に還ることにしよう 何をしても駄目な我だ・・我は 恐れられ
てしまった この国の者達に迷惑をかけてしまったに違いない  だったら――


「蛍!!どこなの蛍」
叫んでいるのはルウであった。光に目をやられつつ・・蛍を探している。
蛍はゆっくりと近づいた。
「ほたる・・・?蛍なの?」
「我は、お主を危険な目に合わせてしまった。」
「そんなの・・・気にしてないよ。私、あんたが消えそうな気がした。」
胸を締め付けられる――
「・・・我は、いつもおぬしと一緒におる。」
そう言ってルウを抱く蛍・・・。


― すまぬ・・ルウ ―





蛍が気がつくと皆は倒れていた。何が原因で倒れたかは分からない・・・・だが、あ
の光のせいなのは確かであろう。
一つ違う事と言えば、あの男の姿がないことだ。とり逃がしてしまったのだろうか 
それとも、消滅をしてしまったのであろうか
蛍は封印された体で最後の力を使った。

『我は ここに存在する洞窟を封印することにする・・・・そして、これは普通のも
のに見えぬよう・・ 彼らには我を見た事を忘れてもらおう。我は・・・・。』
残りの力を使う。力がどんどん抜け落ちてゆく・・・


我は 消えてしまうのであろう


「ほ・・た・・る・・。」
彼女の声がした。

―一緒にいる―


全てのやる事を終えルウに近づいた。
蛍がルウの側に行ったときにはもう意識を保っていられるのは数秒しかなかった。
彼女のほうは、完全に目を覚ました。
「蛍・・・洞窟が。」
「封印した・・人々には見えんであろう。だが、特別な力を持つものならば見えるか
も知れぬ・・。」
そして彼女の顔を優しそうな切なそうな目で見た。
「我は・・・いつもお主と・・・一緒・・・・・・だ。」
そう言うと座っているルウの目の前に倒れこんでしまった。
薄い光を放つ蛍の光 その光こそどこぞの蛍のよう・・・・。




 空に光が現れる  それは新たなる朝を迎える光
水色の澄んだ空に 普段より暑い太陽
      緑がなくなり 動物も消えた
  青い泉に湖  それは全て蒸発して消えていった



ルウの手の中には  獣人の男の子がぐっすりと眠っていた。ブロンドの髪に銀白の
耳・・そして白い肌。
「う・・・あれ?あいつは?それに洞窟も・・・・。」
グラーナが目を覚ましそうルウに尋ねた。
「洞窟は・・封印された。私達には見えないって・・。」
「それじゃぁ、あいつは・・・まさか!」
びっくりしたように聞こえてくる。
「・・・・・いるよ、ここに。」



そして数年後

封印された体は時間(とき)を進む事はない だが彼の月日(とき)は過ぎて行く・
・・。
洞窟も人々の記憶を全て消し、そして自分も封印した・・・いや、自己的になってし
まったのだ。いつ目覚めるか分からない力、魔術の封印は簡単には解けはしない。そ
れを解くには名のたつソーサレスか封印した本人しかいないのだ。ルウも綺麗な女に
成長していた。
「蛍(けい)?どこなの?」
ここは、ストレシア砂漠の町 カランカ町 ルウは誰かを探しているようだった。
「なにぃ、母さん?」
ローブを着た男の子がルウに向かって走ってくる。それは可愛らしい顔をした獣人
だ。
「グラーナさんが着たわよ、挨拶してらっしゃい。」
「はい。」
そして男の子は挨拶をしに行く・・・そして、話をした後 そのまま何処かへといっ
てしまった。
グラーナがルウに近づいて行く。
「あいつ・・・元気そうだな。」
「うん・・・・。」
「まさか、あんなになるとはな。」
「・・・うん。」

ああなると言うのは、話がまた数年前にさかのぼる。
蛍は倒れ光を放った。そして男の子が残った。

<回想>

「ほたる?」
男の子は目を覚ましあたりを見渡す。
「蛍・・・。」
安心するルウ
「良かった死んだかと思ったぜ。」
ぶっきらぼうだが心配しているグラーナ
だが・・
「誰・・?」
「!!」
「・・・これって。」
2人は驚いた。


これは 彼に対するなんなの?


「お前・・名前いえるか?」
グラーナが尋ねたが、男の子は首を横に振る。
「・・・・・。」
不安そうな顔をしている男の子にルウは優しく話しかけた。
「あなたは・・・・蛍(けい)・・分かった?」
「蛍・・・?」
「そう・・・・。」
そう言って涙を流すルウ、グラーナも何故名前を変えたかはなんとなくだが分かっ
た。

<回想 終了>


「悪いな・・まだ俺じゃぁ、解けそうにねーよ。」
本当に悪そうに答えるのはグラーナ。 彼はソーサレスなのだ。
封印の解き方・・そして、あの男の追跡に手伝いをしてくれているのだ。
「いいよ、今日はゆっくりしていって。」
「ああ、そうするよ。」


これは悲しい昔の話  少しばかりの古い話
 今は、誰も神獣の狐 別名『化け狐』を覚えているものは少ない
そして この砂漠の国ができたのは前からこのようだったと記憶がされている・・・・。





あとがき

終了です。

これは過去編です。 下手ですみません・・・・

・・・そうでした、このネタ、利用したい部分がありましたら。利用してください。


では・・・