FOREVER AND EVER./“ロスト”:【とおくいとしきひと】





「此処にいてはいけない。化け物が来るよ」

 柔らかい声。
 生まれ育った集落。

「おいで。…ロスト」


 そう言って自分を連れだした相手の顔を、どうしてか私は覚えていない。




 私の一人称を、勘違いする奴は多い。
 へりくだっているとか、従順だからとか、猫被ってるだけとか、自分が偉いからそういう言い方をしてくれるんだとかいう自意識過剰な重臣とか。
 でも別にそうではない。
 私の一人称は、私がこの性格を当たり前だと思った頃から、平たく言えば覚えてない時分から使っている。


 410年。アスリース。
 まだビショップが異端と言われた双子のグレイシア兄妹だった頃。
 幼馴染みのサラより数十年遅れでロストはアスリース王宮にあがった。
 最初は国王直属のソーサレス部隊の一人として。
 幼馴染みのサラは別に挨拶にも来なかったし、来る暇もないかと思っていたし。逆に向こうはロードソーサレスだから、会いに行けるわけもないしいいか。と。
 その頃はまだ外見は14歳に満たなかった。
 けれどエルフなので、見た目通りの年齢じゃないだろうと周りの誰もが思った。
 実際そうだったけど。
 そしてソーサレス部隊に入って五年。
 急な呼び出しがあった。
 何かと思った。
 ただの一介の、小隊長でもないソーサレスに、なんの用か。
 と。
 ビショップは、変わっていた。
 リディアという人間の女性に。

「君がロスト=グロリオ? ソーサレス部隊第五小隊所属の」
「…は……い」
 呼び出された部屋にいたのは、二人の存在。
 その代の国王直属と無属のロードソーサレス、だというのは判った。
 しかし返事がひどく間抜けなものになったのは、その二人の存在の。
 状態が状態だったのだから、仕方ないと思うのだけど。
 国王直属だったのは、“金の魔女”と呼ばれた前任のシーウ=アヴィディアの跡を継いだネハン=プロメテウス。“血の聖母眼”を持つ黒髪の青年。つまりは王族の一人だが、“プロメテウス”の姓を名乗っている時点で政権放棄しているのは明らかだ。
 それから無属のザラギ=クロスガード。同じく黒髪の銀目の男。ネハンと比べれば幾分年上で、たたき上げで此処まで来たという人だ。
 だが、その二人が何故一介のソーサレスを呼び出した挙げ句。
「おう、ぼっさとしてないでこっち来いや小僧」
「ロスト=グロリオって言っただろさっき俺が名前」
「うっせネハン。第一お前の読み方が間違ってんじゃないの?
“ロスト”じゃなくって“ラスト”かもよ?」
「……いえ……“ロスト=グロリオ”で…あってますけど」
「えぇ?(露骨に嫌そうな顔)」
「なにやってんだよザラギ…。“ロスト=グロリオ”で間違ってないのならこちらに来なさい。座っていいから」
「……はぁ………どうも」
 目上に対して、礼儀は大切だ。
 しかし。

「……“はあ、どうも”……。って、お前はどっかの田舎貴族か?
 上官が挨拶したらそっちは名乗って挨拶だろーが!?」
「す、すいませんロスト=グロリオと言います!(いつそっちは挨拶したんだ?)」
「で?」
「……お、お初お目に、かかります」
「よろしい」

 以上。ネハンに頭を掴まれてほぼ脅されて言わされた会話である。
「あ、ザラギ。俺、フルハウス」
「あぁ!? お前さっきっからフルハウスばっかじゃねーかよイカサマか!?」
「お前が下手なんだっつのワンペアしか出ない癖に」
「んだと身体検査させろお前服ん中にこれと同じ柄のカード仕組んでんだろ!」
「誰がするかおっさん」
「俺はまだ三十六だ銀色の椅子押しつけんな!」
「年寄り」
「ネーハーンー!」


 …なんで。
 なんで人を呼び出しておいて、仮にも執務室なのに此処は。
 このロードソーサレス二人は昼間から。
 煙草片手に賭けポーカーをやってるんだろうか。

 それがロストが間抜けな返事しか出来なかった理由の一つである。

「つかこいつエルフなんだから俺よかよっぽど年食って」
「外見若いからいいじゃないか。ん? ちなみに幾つ? 見た目14くらいだけど」
「………100歳は…越えてますが」
「ほら見たことか!」
「でも見た目ザラギの方が老けてるし」
「やっかましーい!」

 本当に、何なんだろう、用件は。(多分字余り)

「あ、ロストお前アレ出来るんだって?」
「………、ポーカーですか?」
「だっれがポーカーの話してんだよ! アレ! イリヤが見たって」
 いや片手にカード持ちながら言われてもそれしか思いつかないんだけどな。
 …イリヤ?
 どこかで聞いた名前の人だな。
「ロスト=グロリオ」
 ネハンが急に、押さえつけた声で言った。
「アスリースのビショップに絶対必須とされる技法は、知っていますね?」
 空気が変わったのも判った。
 ネハンが言わんとする事も。
 ビショップになれとか、言われているのではない事はわかる。
 その状況で“絶対必須の技法”を問われる理由は、明確には判らないが。
 それが何かは、知っている。

「…“二重詠唱”、“二段発射”」

「…ああ。そうだ。
 それが出来ない奴は、うちのビショップになる資格はない」

“二重詠唱”――――――――ソーサレスの最上級技法の一つ。
 通常、魔法を詠唱する場合、一つ一つ。その都度に詠唱を行う。口に、声に出して。
 だから、通常二つの魔法を続けて放つにしても、最初の魔法を全て詠唱し、発動させてからまた詠唱に入る事になる。
 この手段をショートカットしたのが“二重詠唱”だ。
 一段目の魔法を詠唱中に、二段目の魔法も声に出さず(要は心の中で)詠唱。
 一段目の魔法がダイヤモンドダスト。二段目が“アイシクルクライド”なら、“ダイヤモンドダスト”と口にしてすぐ。
“アイシクルクライド”の最後の詠唱文である“仇なすモノを屠ろう”だけを紡ぎ一秒と間を置かずに“アイシクルクライド”の詠唱も終える。
 それが俗に“二重詠唱”と呼ばれる技法だ。
 これは結構才能と魔力が優れていれば扱える。
 問題は“二重詠唱”と繋ぎで呼ばれる“二段発射”の方。
 いくら“二重詠唱”が出来ても、二段目の魔法が不発したり、発動しなかったり、そもそもの一段目で失敗したりしたら、それは“二重詠唱”は成功しても“二段発射”は失敗したという結論になる。
 実際、使えない魔法を打つ事程無謀な事はなくて。
 これはそれと同じか、それ以上に無謀極まりない事だ。
 いくら“二重詠唱”が出来ても、魔法の発動に失敗すれば元の木阿弥。その上“二重詠唱”は失敗時の反動がでかい。ただの不発でも、“二重詠唱”の場合下手すればその辺り一帯を原型留めずに壊すくらいの反動がある。
 一段目の魔法の詠唱中に別の魔法を詠唱するという事は、一段目の魔法の発動と同時に既に二段目も発動させかけているという意味で。それを途中で止めたり、失敗したり。
 というのは、一段目の魔法も不発させた。という事に他ならない。
 そして“二重詠唱”は得てして上級魔法の併用が多い。だから不発時は反動が洒落にならない。
 だがそれを、詠唱から発動、魔法の形まで全て完璧に終わらせられれば、それはこれ以上ない効果を生むだろうし、相手の反撃の隙もないだろう。
 つまり、“二重詠唱”を行った上、ラストまで成功させた形の事を“二段発射”といい、この二つが出来なければアスリースのビショップにはなれない。
 逆を言えばこれが出来れば相当のレベルだという事だ。
 最も“二段発射”は経験もないと大抵成功しないが。


「…お前はそれを両方、しかも戦闘時に成功させて見せた。
 ただのソーサレスでいるには惜しいよな」
「…意味が、よく分かりませんが」
 確かにこの間の実戦で、ロストはその二つを成功させているが。
 ロードソーサレスの耳にまで入っているとは思わなかった。
 だって“二重詠唱”“二段発射”はあくまでビショップの絶対必須であって、ロードソーサレスの絶対必須ではない。だから、これが出来なくてもロードソーサレスにはなれる。
 ネハンもザラギも、“ビショップになれるとかそういうんじゃない”とか茶化したりは一切しなかった。
 ただ、数枚の書類をロストに手渡して、言った。
「国王、ビショップ、他魔法間の要人とロードソーサレス全員を代表して言う。代弁か。
 …お前、“ソーサレス特務部隊”は知ってるな?」
「……一応は」
「お前の配属がその中の一つに決まった。
 明後日に指定場所へ行け。それ持ってな。
 これは、さっき言った全員の命令だ」
「………、はい」


 存在だけなら、割合有名なのが“アスリースのソーサレス特務部隊”である。
 普通のソーサレス部隊とは違い、それぞれの部隊の長のみに従って動く少数精鋭の部隊だという。
 が、噂だけが有名で。実際そんなのは他国を牽制するためのアスリースの嘘だとか、昔の伝説だとか。そんな程度の認識しかないのが事実だが。
 ロストもそう思っていた。
 指定場所。
 西の塔近くの一室。
「……」
 扉をノックする。
 中から了解なのか、ノックが帰ってきた。
「………すいません」
 なんとなく、口にしてから入る。
 ぱぁんと音がして吃驚した。
 誰かがクラッカーを鳴らしたのだ。
「よう同僚!」
「………は…、」
 呆然とした。いや唖然に近い。
 だって、此処は特務部隊の。
 指定場所で。
(もしかして…からかわれた?)
 そんな考えが頭を過ぎる。
 その時だ。
「おい、ロスト」
 声が、かかった。
 金の髪の青年だ。テーブルに手を投げ出して座っている。
「よ」
「…………あ」
 知っている。
 同じソーサレス部隊の。
 確か名前は。


“イリヤが言ってた”


「………イリ…ヤ…?」
「そう、よく覚えていたな」
「……貴方」
「ああ、僕もこの部隊の人間さ」
「…………え、と」
「此処は“特務部隊”で間違ってないとも」
「…………………じゃあ、ネハン様に言ったのは」
「僕だ」
「…………………特務、部隊」
 改めて直面する。
 イリヤを含む十人の者達。


「“死神犬(グリム)”だ」


「……グリム」
「お前もそや。仲間いり」
「そう僕らソーサレス最強の戦闘部隊。ちなみに隊長は彼さ」
 視線の先、佇んでいるのは赤髪の男。
「グロウズだ」
「入隊を歓迎するよ。最も、墓場とも言われる場所だがね」
「……墓場、ですか」
「入隊したら最後ということだね」
「身分のええ奴はおらんよ。身分がネックになるさかい」
「…………」
 に、と笑う。
「……ええ覚悟や。ほな自己紹介といこか。俺は鬼弁天(ジャッカル)。
 鈴村暁子や」
「……………す」
 フラッシュバックする記憶。
 柔らかに、微笑んで。
「……暁子、さん」
「暁子でええよ」
 すいと頭を下げた。
「ロストと言います。これから、……」
「紙どこいったー?」
「六告鳥の紙だろ?」
 無視?
「ほら書いたれ書いたれ」
「……えーと、あみだっくじーあみだっくじー」
「…………あの?」
「ああ、すまん。定番なんだ」
「なにが?」
「六告鳥の紙は知ってるか?」
「………呪術に使う…」
「そや、ソレ使って専用の契約名を決めるんよ。契約名で名乗るんがセオリーやし」
 俺は鬼弁天やろ?
「…………………」
 は、と息を吐く。
「何故“あみだくじ”……」
「気軽にいこってことやん」
「そうだとも。一度入ったらその名で縛られる。何処にも行けない」
「せめて、名前くらい気楽にってな」
「…………は、あ」
「気張らず行こうや。な」
「………………」
 そうやって、見上げた顔はなんて明るい。
 光。


「………誰だよ。“首切り女王”なんて書いた奴(あみだが辿り着いた先)」
「あ、俺」
「お前か!」








 やがて、任務にも慣れてくる。
 ほとんどが、死刑執行人としての仕事だったが。
 第一級罪の処刑。暗殺。
 血が手にこびりつくのに時間はかからなかった。
「……っ…助け…」
 すいと扇を振り下ろす。
 なさけすらなく。
 悲鳴すら許さず。
 散る血飛沫。
「…………“首切り”…か」
 首を狩る。
 数え切れないほど。
 イリヤ達が駆け寄って来た。
「終わったかい?」
「うん」
「その扇にも慣れたみたいだね」
「なんとか」
「うちに伝わる四つのうち一つだ。大事に使えよ」
「はい」





「ロスト」
「……暁子」
 廊下ではちあった。
「……任務ど?」
「ぼちぼち」
「………そうかぁ」
「…………今日は、訛使わないんですね」
「気分」
「そう……暁」
「ロストって、」
「…………」
「…………」
「悪い、何か言いかけた?」
「いえ…」
「…………ロストって、兄弟いる?」
「……」
「何故無言」
「………いると、聞きました」
「…伝聞かい。…そっちの質問は?」
「……………暁子は」
「ん?」
「暁子は、……兄か弟が、いますか……?」
 蝶子と、いう。心の中で思う。
 貴方は笑顔で頷いた。
「うん」



 グリムに入って、随分経っていた。
 幼馴染みのサラとは、まだ一度も会っていなかった。
 妹の顔も名前も知らなかった。
 キリエという、名付け親から聞いただけだった。



「新しい任務をあげよう」

 時の国王が言った。
 ネヴィルという、名の。

 私は時のビショップを殺していた。
 それが任務だったから。
 左手を失ってまで、彼女の子を守った。

「“首切り”」

 私をそう呼ぶ、国王の声は優しい。





「なにやってんだ」
 馬鹿だなと貴方は笑った。
 手を失った私に。
「左利きだろ。大変じゃないか」
「………自分で、決めたことです」
「……そうか。………なあ」
「はい…?」
「いつか、俺の腕をやるよ」
「はぁ?」
「多分、そんな日が来る。気がする」
 笑って言った貴方。暁子。




「…“首切り”」
 現実に引き戻される。
「……陛下。何を」
 きゅと今は片方しかない右手を握りしめる。
「……今、ビショップはいない。誰も。適任者も」
「………ですから」
「……お前が、」
「っ」
 本能が、聞きたくないと叫んでいた。
「…」

「お前がなっておくれ」

「………………」
 一瞬、何を言われたのか。
「……そ、んな」
 判らなかった。
「……無理です。私はグリム…。契約をされたまま……何処へ行けましょう……」
 呪いの名前に縛られたまま。
 そんなビショップは。
「……だからだよ」
「…陛下?」
「………その名の通りにしなさい」
「…陛下…………、」
 意味が、
「………首を、お切り」




 意味が分かった。判らない馬鹿なら、いいと願った。
 何か、言いたい事があるのに。
 言葉に、ならない。
「皆、覚悟を決めて待っているよ」
 その言葉にはっとして顔を上げた。
 微笑んでいる陛下。
 踵を返した。
 向かうのは初めて会った部屋。
 走るのは、笑い合った部屋。
「“首切り”…首をお切り」




 だんと手を付く。
 開かれた扉。
 佇んでいる人達。
 なんだ。これは。
 出来の悪い夢か。

 なんだ。
 これは。

 どうして、逃げない。


 契約の名前を解くには、名付けた全員が死ぬしかない。
 つまり、この場にいる全員。
 私を、除く。


「………なん」
「国王陛下からの命令だからじゃないよ」
 イリヤが言う。
「掟が言うのだ。掟に従うものだ。我らは」
「グロウズ……」
「お前が、この国を導くと。それは長く、長い道程だ。
 それは、必要なことだ。お前が、誰よりも、この国に。
 大事だと言う。掟が。掟に殉ずるものになる。お前が」
「そんなもの…!」
「……判れ。ロスト。
 お前が、この国の道程だ」
「……………グロウズ……っ」
 嫌だ。
「………、」
 グロウズ、貴方が優しく、笑った。
「お前が、俺達の光になる。………光だ」
「…………、」
 嫌。
 認めないで。
 そんなこと。
 そんな。


 嫌だ。




「ロスト」
「…暁…」
「首を、切りんしゃい」
「…………っ」
 どうして、待ってる。
 皆、首を、切られるのを。
 待ってる。
 どうして。
 なんだこれは。

 まるで。

 まるで。

「……い」

「…ん?」
「……もういい」
 まるで。

「…………もういいから………」
 出来の悪い。夢を。
「……これ以上、……」
 見せないでくれ。


「これ以上……私が憧れたものが壊れるのを見せるな……!!」



 もう、帰って来ない。



「…………簡単に、手放すなよ」
 落とした朱雀を、貴方が拾った。
「……ほら、俺で、最後だ」
 屍だらけの部屋。
 笑い合った日々は、何処に行った。
 何処に。
「…………」
 ぽんと、
 暁子はロストの頭を撫でた。
「………ロスト」
 笑う。
「………簡単に、逃げたいなんて言うなよ……………?」
 腕をやるから。
 約束通り。
 そんなことを勝手に言う。
 言うな。
 私はそんな約束していない。
 なくなってしまう。
 そんなコトになったら。
 私は干からびてしまう。
 止めて。



「……嫌……!」
「……今頃、言うなよ」
「…嫌…いやぁ……どうして……どうして…!?
 昨日まで…笑ってたのに…!
 どうして私に……どうして……殺される…………」
「……それは………」
 ロストを抱きしめて暁子は言う。
「皆…お前を自由にしてやりたかっただけだ」
「……………」
「閉じこもって欲しくないんだ。こんな四角い場所に。
 お前は、誰より強いから。……お前が好きだから」
「……………っ」
「……………………お前に俺が殺せないなら、俺が自分で死ぬしかないよ」
「そんな…っ」
 胸ぐらを掴む。
「……そんなの…っ…許さない…そしたら…わたしもしぬ…!」
「それは駄目だ」
「しぬ…!」
 泣いて、泣き叫んで。
 この出来損ないの夢が終わるなら。
「………………」
 終わらない。
 終わらせて。



 手を振り上げる。
 自分の首に向かって。
「止めろ!」
 暁子の手が寸前で止めた。
「………馬鹿」
「……わたしも………つれていって…………!」
「………………馬鹿」
 抱きしめる。
 細いからだ。
 動けない。
 自分一人では。
「しょうがねえなぁ……」
 呟いて背中を抱く人。
 優しい声。手の平。
 傷付いて、癒される。不思議な人。
 やっぱり、貴方を、殺せない。
 首を左右に振った。
「……………繋がれたままは…キツイぞ?」
「…わかってる」
「痛いぞ…相当」
「わかってる」
「………行けるんだな……?」
「でなきゃいわない。やめない。……わたしはわたしをしばるあなたにかつ」
「……そっか」
 あ、その笑顔。
 好きな、笑い方。
「じゃあ、一個だけ」
 腕をもらってくれよと言った。
 いつか会う日の、目印だと。
 泣きそうな私をもう一度抱きしめて、手放すなよと言った。





「………………好きだよ。馬鹿ロスト」




 その声はひどく優しくて、強くて。
 ついた窓を強く叩いた。
 硝子の割れる音がした。
 破れた。
 破片。
 静かに。







「上手く、首を切れなかったのだね…“首切り”」








 ビショップになって、初めてサラは自分の存在に気付いたようだった。
「……驚いた」
「……、」
 妹の名を聞いた。
「ユーディンも来るって」
「……そう」
 最果ては、何処だろう。
 この夢の。




 続く。



 終わらない。

 貴方が、終わらせてくれなかった。



 暁子。


 いつか、この腕を返しに行く。と。


 貴方にもらった、肩に移植された左腕を抱きしめるように握って思う。







 紐解いていこう。

 これからの道程を。

 貴方達の。いや。



「……暁子…グロウズ………」
 みんなの。

 一緒に。









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−参照−用語・キャラクター等関連ML(〜2968 時点)


 グロウズ
 イリヤ
 ―――――初出。

 朱雀(レイム)>
 アスリース特務部隊“グリム”に伝わる武具の一つ。四つあり。

 ネヴィル=リヴィアス
 リディア=テオジェルス
 ―――――『3195/ネヴィル−90−真夜中のシンデレラ−1-3【首切り女王】』

 ロスト=グロリオ
 ―――――『2708/ネヴィル−34−幕間−【誰かの悪夢】』初出。

 死神犬(グリム)
 ―――――『3089/ネヴィル−73−閑話/未来の二つの顔−幕間【最悪の敵】』初出。

 鈴村暁子
 ネハン=プロメテウス
 ―――――『3103/ネヴィル−78−閑話/未来の二つの顔−7【愛に時間を2−1】』
―――――『3104/ネヴィル−79−閑話/未来の二つの顔−7【愛に時間を2−2】』

 ザラキ=クロスガード
 ―――――初出。