:::オリヴィア外伝ー4:::



時は千年碧月下旬。
アーリン嬢の誕生日が数日前に終わり、一人心の中で間に合わなかったかと舌打ちする男の話である。
その男というのは、オリヴィア・アルトゥールである。
オリヴィアは砂漠の国から帰る途中、ステンダー領王邸を訪れていた。
エーリックの所業の確認と腰の具合が悪いという領王への見舞いを兼ね、数人の部下を従えていた。
多くの騎士やその他の外交官付きの職員はオリヴィアの第二秘書であるレイラに先導を託し、先にラジアハンド城へと帰した。
「オリヴィア様、領王様がお茶を飲まれないかとおしゃっております。」
領王邸で働いているのだろう女中が、オリヴィアがいる領王の一族が眠る墓地に伝言を伝えに来た。
かつてステンダー家には現領王の元に才気に溢れた血族が何人もいた。しかしその血族は疫病に倒れ、現領王とステンダー家の末弟エーリックを残し皆亡くなった。そのステンダーの厄災が起きてもう四年が経つ。
「そうですか。お待たせさせてはいけませんね。」
オリヴィアは生きていれば同じ歳であり、エーリックにとっては三番目の兄クラウス・ステンダーの墓碑の銘を今一度見た。
女中に馬車まで案内され、一人で乗ってきた馬は女中と共に来た男が乗って帰ることになった。
馬車の窓から移ろう景色を見る。王都生まれで王宮が庭であったオリヴィアに、クラウスは何度もこのステンダーの景色のことを話していた。高山に多く分布する白樺のこと、木の実に誘われ馬車通りを素早く横断するリスのこと。今はもう彼の静かな声は聞く事は出来ない。
オリヴィアはクラウスの顔を思い出す。ステンダーの空気も手伝ってかクラウスといた時の事をいろいろ思い出した。


クラウス・ステンダーはラジアハンドの正規騎士であった。オリヴィアもまた正規騎士であった。何かと身分が高くて二人は多くの同僚に警戒されることが多かった。二人は同じ歳であり、何かと引き合いにも出されるということもあった。そのおかげもあり、名前はお互い知っていた。そして二人はそれぞれの上司と共に行動をしていることが多く、その上司がよく顔を合わしていたのだ。そして必然的に二人も顔を合わすことになり、同じような身分境遇と同じ歳なども合わせて、二人の性格もあったのだろう顔を合わせてから間もなく意気投合をしていた。
そしてオリヴィアとクラウスが実力と家の名前も手伝ってお互い23歳ではあったが、最高位騎士の下でいくつかある大隊の副隊長をそれぞれしていた時のことである。時は九九一年。ドランバーム家の国王暗殺未遂という事件を発端とし、王国正規騎士団が討伐軍とし派兵をされていた。二人は補給路の護衛で出兵していた。先陣部隊が血気盛んにも派手に暴れているという話を、お茶をすすりながら聞いていた。
「確か末っ子のエーリックが前線にいたんじゃなかった?」
作戦本部でオリヴィアとクラウスはお茶を飲んでいた。もともと逃げる敵を軍が追いかける形だったため、補給路の護衛といっても静かそのものだった。補給路を絶つというような作戦を行えるような兵力は敵にはもう持ち合わせていなかったのだ。
「そうだったかな。」
クラウスが冷静にそう表現した。もともと性格が冷えた所があったため、別段エーリックのことを嫌っていた訳ではなかった。
「あれだけ問題起しという噂があるのだから、先陣の先陣で突っ込んでいるんじゃないか?」
「噂じゃない。本当の事だ。あいつの行動は俺には理解不能だ。」
クラウスはそうエーリックのことを言った。オリヴィアはクスクスと笑う。
「何がおかしい?」
クラウスが分からなさそうにオリヴィアを見る。空になったティーカップを机の上に置き、足を組み直す。
「末っ子君は随分破天荒らしいね。」
オリヴィアはポットに残っているお茶をクラウスのカップに注ぎ自分のカップにも注ぐ。今が討伐で出兵しているとは思えない優雅さだった。本人達は別段この空間が不自然ではないとは思っているが、平民出の騎士達にはこの作戦本部の優雅さは少し異様でもあった。
「血が繋がっているのが不思議なくらいだ。」
「でも、ファスティナ夫人とクラウスの血が繋がっているのも少し不思議だよ。」
オリヴィアはこのクラウスの母、ファスティナ領王太子夫人に憧れていた。ステンダーの戦力を否応無しに証明されている要因の一つにファスティナの存在もある。女性でありながら勇猛果敢であり優秀な魔法の使い手であった。オリヴィア自身はそれほど魔法に詳しいわけではなかったので、どのくらいの実力を有し、魔法使いとしてどのくらいのランクにいるのか知らなかったが、それ以外に知らされる武勲で十分の実力を知らされていた。貴族の女性のあり方がもともと気に入らないオリヴィアにとっては、ファスティナは正に女性としても好感が持てた。それに実際何度か会った事があるが、女性としての魅力も十分兼ね備えていた。クラウスには何度かそのことを話したことがある。クラウスはその都度どういう趣味しているのか分からないようにオリヴィアを見る。そしてまた急にクラウスの心の中で不安が膨らみこの不思議な趣味をしている友人を見て釘を刺した。
「醜聞沙汰を起すなよ。」
とクラウスが言った。自分の母親に猛烈に憧れている友人を目の前にし複雑な心境であった。
「クラウスの父上が相手であれば敵として何ら不足はないね。それに若き騎士と貴婦人との不倫は昔から宮廷恋愛の話としては多いじゃないか。」
オリヴィアはそんなことを言いながらおどけて見せるが全てが冗談であるとは思えない節もあった。
クラウスは話題を変えようと今騎士達の間で妙に広がっている噂の話をしだした。
「今話題になっている噂を知っているか?」
オリヴィアはお茶も飲み終え、手持ち無さたに本を手にとる。“テーヴァに伝わる雅楽紀行”オリヴィアは本のタイトルに“紀行”と付けば何でも読んでしまう。ラジアハンド外の国に行ったこともなく、この国が好きではない自分にとっては憧れと言ってもいい。憧れて実際に行動に出られないこの欲求は本を読むという行動に転化をしている。その読みかけの本のブックマークを取り、足を組んだ膝の上に本を乗せる。
「噂?天使に魅入られし者は天に昇るってやつ?」
クラウスは首を振った。
「教会に悪魔が現れ殉教者の烙印を押す。」
オリヴィアはクラウスの顔を見る。
「意味が分からないな。何で悪魔が殉教者を指定するんだい?しかも烙印なんて言葉は元々悪い意味合いなんだよ?」
クラウスもまたオリヴィアに言った。
「天使はお気に入りの者と共に昇る訳ではないのか?」
二人は顔を見合す。そして二人の結論はこうだった。
「所詮、噂ということだね。」
「そういうことだな。」
二人は暫らく無言になる。二人は何かを考え込んでいるような感じであった。オリヴィアがブックマークを本の間に挟み、本を閉じる。
「天使に悪魔。我々ラジアハンド国民がいかにも好きそうな噂だね。」
オリヴィアがそう言った。
「お前が起しそうな醜聞以上にな。」
オリヴィア一つ溜め息を付いてクラウスに向かって言った。そこまで言われればもう言わなければならないだろうと思ったのだ。
「そんなに警戒しなくてもいいよ。もう玉砕済みだから。」
「お前本気で母上に言い寄ったのか?」
間を入れずめずらしく大きな声を出すクラウス。そして信じられないようにオリヴィアを見た。
オリヴィアは何だか納得いかない表現だな〜と思いながら心情を語った。
「私はどうも息子に見えるらしい。小さい頃から何度かお会いしているのが災いしたな……。それにまだまだ私はクラウスの父上の足下にも及んでいないそうだ。」
「そういう所が父上の足下にも及んでいないんだ。」
オリヴィアはがっくりと肩を落すような仕草をしてみた。
「もう私も23歳だ。十分時は熟れていると思ったんだけどな〜。」
クラウスは呆れたように言い放った。
「これに懲りて変な恋愛趣味は捨てるんだな。」
そんな会話が思い出となってしまったことが、本当に悲しかった。死を聞いた時は悲しいと思っていてもクラウスが帰ってくるということはないのだが、やはり若い内には死はどこか遠いことのように思えてしまうことによって、突然もたらせる死は心に傷を付け大きな悲しみを呼んだ。今は悲しむという気持ちの前に良い思い出を思いだし懐かしむ事が出来るようになった。
「アーリン嬢に目が移ったと言ったら、クラウスは何て言うだろうか……。懲りない奴だと呆れるだろうか?」
そんなことを心の中にいるクラウスに問いてみる。
「でもアーリン嬢は独身だし、歳の差も少しはましになっただろう?相変わらずユリウス領王閣下の目があるけどね。それに少し慎重派になったよ。醜聞沙汰が煩わしいと思うようになった辺りに、若さがなくなったかな…」
一人馬車の中で思いを馳せる。そして砂漠での悪夢を思い出し、付け加える。
「末っ子君は本当の本当に破天荒であることを、身を持って知ったよ……。」
そしてステンダーの空に向けて懐かしき思い出に笑顔を、“末っ子君”には苦笑を送った。


オリヴィアは領王がいる寝室に案内された。ベットに横になっているユリウス。体を起こすような仕草をするためオリヴィアは慌ててユリウスの体をぐら付かないように押さえながら、背にいくつものクッションを入れる。女中が手を出そうとするのをユリウスが制した。
「この男に任せればよい。この男には我が家を落し入れようとした前科がある。これは罪滅ぼしだ。」
ユリウスはそう言った後、部屋にいる女中や給仕を下がらせた。
部屋に二人だけになるとオリヴィアがベットの脇にある椅子に腰を掛け心外そうに言った。
「私はこのステンダーを全て敵にするかもしれないリスクを犯してでも愛に生きようとした、ロマンの使徒であったと思っているのですが?」
オリヴィアはユリウスに紅茶の入ったカップをソーサーと共に渡した。
「呆れた奴だった。自分の母親より年上の女に言い寄るとはな。所詮我が息子には及ぶまいて。………しかし、それも過去の話だ…。もう四年だ。寂しいものだ。あやつら儂より先に逝きよって………。」
ユリウスは紅茶に口をつけた。オリヴィアもまた、同じように口をつける。また言葉の表現に納得いかない。“言い寄る”ってまるで害虫かのような言われようだな…と思うオリヴィアだった。
「それにしてもお前さんが結婚するという噂は依然聞かんが…何をより好みしておるのだ?王女の婿にでも名乗りを上げるのか?」
害虫扱いをされた前科持ちのオリヴィアはまた害虫扱いを受けないように無言で笑顔を作った。
オリヴィアの喰えないような笑顔に、ユリウスは何かを覗き込もうと伺う。
「あの時よりいっそう喰えん男になったものだ。クラウスがいればお前さんの今の姿に何ていうかのう。」
ユリウスは遠くを見つめ皺が寄る手を目に覆った。オリヴィアは何も言えず押し黙る。ユリウスはすぐに目を覆っていた手を除けオリヴィアをからかうように口元を緩め見る。
「それにしても、惜しいことをした。お前さんが本当に愛人にでもなれば、利用価値は多いにあったのにな。断る前に儂の耳に入っていれば適当に遊んでやれと言ったはずだで。」
今となっては実現しないことを言うユリウスにオリヴィアは胸が詰まるような思いがしたが、負けじと言い返した。
「それはなかったと思います。そういうことを容認できるような方ではなかったから私は好きだったんです。」
二人はファスティナ・クラン・ステンダーの顔を思い出す。


オリヴィアが最後にファスティナ領王太子夫人を見たのは九九六年、ステンダーの厄災に際し王国政府にステンダーの実情を報告、また王国政府が疫病の猛威に晒されるステンダーに対し、政策を伝え帰るために王宮に参じ、国王陛下、ビショップ猊下、文官府と武官府のそれぞれの高官が一同に会した公式国王謁見の間での政令を命ずる場で、ステンダー領王の後ろに控えていたのを見たのが最後だった。
その時オリヴィアは国王の後ろに控え立っていた(この当時はまだ王室警護隊長)。
「ステンダー領内における疫病の蔓延に対し、我が王宮政府はこの疫病の殲滅と二次災害の防止に協力をする。具体策とし、専門医並びに聖ブライ教会との連携によりプリーストを、ステンダー領内へ派遣をする。また、正規騎士団第一軍をステンダー領に二次災害の防止のため派遣をする。疫病の二次災害の防止策に対し、ステンダー領王代理の布告をもってステンダー領を封鎖する。封鎖の解除はステンダー領王ないし、代理による布告によって成立する。」
ステンダーの人々は犠牲になることかもしれない。この可能性は時間が経つにつれ現実味をおびるものだった。
陛下が発する言葉を皆黙って聞いていた。この政令はこれから自分はステンダーに赴くことは出来なくなりステンダーにいる者達も動けなくなるということだ。果して疫病に侵され、勢いは増すばかりのかの地から、友人はこの王宮に帰ってきてくれるのだろうか?そしていくら年上であったとしても恋焦がれたユリウス領王の後ろに控えている女性とお会いすることが出来るだろうか?国王の声だけが響く静かな謁見の間でオリヴィアはそう思った。
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この政策案を初めてオリヴィアが耳にしたのは、ステンダーの封鎖が文官府の具対策の提案として決定したというのを、陛下とステンダー領王との非公式の謁見時に聞いた。その時、国王は苦渋の顔をみせ、ユリウス領王は深く頷いていた。
「いち早くこの判断をステンダーにいる者達へ伝えるべきです、陛下。事態は聞く限り刻々と深刻になっているようです。」
ユリウスは深い声で陛下に進言をした。
オリヴィアは即座にステンダー領内へ帰省しているクラウスのことを思い浮かんだ。この封鎖の案はユリウスの口からも、もたらせていた。その時思わずオリヴィアは反論の口出しをしそうになっていた。しかし、その反論は長い目で見た場合の周りに広がりを見せる二次災害を思い起こさせた。その想像した災害はオリヴィアを扉の近くで沈黙をさせた。
「他に解決策はないだろうか?」
国王が堪らず声にした。
「他に解決策はないのか?文官どもは頭数揃えてもそんな案しか出ないのか?オリヴィア、そなたにはもっと建設的な案があるだろう?」
オリヴィアは答えに窮した。自分の無能な頭を呪うほかない。期待され意見を求められたが何も出てこない。
答えに窮し、苦渋の表情をしているオリヴィアにユリウスは助け舟を出した。
「陛下、この案は誰もが行きついた答えです。それがよろしいと存じます。」
国王は椅子に深く座り直し溜め息を一つ零した。
「ユリウス、そなたはそれで本当に良いのだな?多くの領民を失うことになるかもしれん。そなたの子息や、孫達も失う怖れが一番高い方法なのだぞ?」
「陛下が私の気持ちを察して下さるのは大変恐縮するに至りますが、陛下は国の主。災害を最も小さく食い止める方法を選ばれるのが最善の方法でしょう。」
国王は手を微かに上げ国王の補佐役を呼ぶ。封鎖の案はこの場で承認され政令となった。オリヴィアはこの封鎖案が承認された時、ファスティナ領王太子夫人に会おうと思った。ユリウス領王の目も気になる所だが、どうしても会っておきたいと思ったのだ。
陽が暮れる頃オリヴィアは城内のステンダーの屋敷にいた。かれこれ数十分は待っているが現れる気配はない。突然の訪問だったため、オリヴィアに後日改めてと給仕などに言われたが幾等でも待たせてもらうと言い強引に待たせてもらっていた。政務用服を着たまま現れたオリヴィアに何事だろうと思われただろうが、オリヴィアはおかまいなしだった。
それからさらに数十分経ってからようやくファスティナ領王太子夫人が現れた。
「大変お待たせをして申し訳ありませんでしたわ。オリヴィア閣下。」
五年前と何も変わらないその笑顔をと共にファスティナ夫人は部屋に入ってきた。オリヴィアは心音が早まるのを感じる。これほどまでに骨抜きにされてしまうのも、何だか自分の気持ちや本音や、立場上のことを無視する心臓に対して呆れてしまう。
オリヴィアは高鳴る心音を隠すかのように、五年前よりコントロールに磨きがかかる笑顔を見せる。
「突然の訪問をお許し下さい。」
ファスティナ夫人とオリヴィアは机を間にしそれぞれ椅子に座った。
こうして二人だけでしゃべるのは玉砕以来だった。気まずい空気などは微塵にもない。そこにあるのはファスティナからの息子を見るような暖かい視線と、随分と成長をした男性として尊重をした笑顔。相変わらず自分は子供と見られてしまうのだろうか?とオリヴィアは少しがっかりをしてしまう。もうこれでも二八歳なんですよと言ってみたいがそれは阻まれた。また、「私は夫のような人に対して愛おしいと思えるし、オリヴィアくんは私の可愛い子供のようだわ。」と、そんな風にまるで学校の憧れの先生に小さな子供が告白して見事にかわされるような風に言われてしまえば、落ち込んでしまう。
その後オリヴィアは他愛もないことをしゃべり、そしてどうしても聞いておきたかった事を聞いた。ファスティナ夫人はオリヴィアが聞きたかった言葉を紡ぎ出した。オリヴィアはその言葉に自分の心の中にあるわだかまりを取ることができた。


「そういえば政令が出る直前に、ファスティナに儂の目がある中堂々と屋敷に来たな。あの時ファスティナと何をしゃべっていた?」
ユリウスがニヤリとして聞いた。
「それは……秘密ということにしときましょう。私の大事な秘密ですから。」
オリヴィアはニコニコと愛想良く微笑んだ。
「お前さんのような男が、息子と同じ年代であれば、ファスティナを巡っての争いにどんな戦況をもたらせたか、興味を惹く所があるわい。最後は息子が選ばれることは明白ではあるがな。単純実直の男どもには良い香辛料となっただろう。」
「単純実直の男どもとはどんな御仁でらっしゃったのですか?」
オリヴィアは恋の敵手となったかもしれなかった男達は誰だったのか興味を覚えた。
「最終的に争うこととなったのは、お前さんもよく知っている単純実直な男どもだ。ワルターとラジールだ。」
オリヴィアはこのユリウスの称する「単純実直」な御仁が、ワルターとラジールであるのには驚きを隠せなかった。ユリウスの言い方では「単純実直」が決して誉め言葉ではないように感じられたので、オリヴィアは苦笑せずにはいられなかった。仮にも二人はラジアハンド国の武官府のトップクラスにいる者達である。二人が同時に「右」と言えば殆どの騎士達が右を向くのである。そんな二人を捕まえて「単純実直」と片付けてしまうユリウスにオリヴィアはこう言った。
「それはかなり私にとって手痛い敵手ですね。御二方に挟まれて戦況を潜らなければならないのは無謀であったかもしれません。しかし…あの御二方と私の好みが一緒だとは……。」
オリヴィアは最後の方の言葉は濁した。憧れの的であったことは確かであるのだから、敵手が沢山いておかしくなかったのだが、揃いも揃ってワルターとラジールも敵手であったかもしれないのには複雑だった。
オリヴィアとユリウスはその後もクラウスの話やファスティナの話を続けた。
その中でオリヴィア思った。最初は親友がいなくなったことが信じられなかった。いないということは分かっているのだが、ふと遊び相手を探そうという時に親友の名前が出てきていたが、時が経つにつれその思い付きは別の友人の名前がでてくるようになった。
人間の記憶と思考のメカニズムにオリヴィアは都合がいいな〜と思ってしまうが、いつまでも変化がないようではクラススにもファスティナ夫人にも情けないと言われてしまうかなと、やはり自分の都合のいいように結論つけてしまう。
「この先、ファスティナ夫人と同じ歳になった時、自分は、少しは良い男になったか聞いてみます。」
オリヴィアはユリウスにそんなことを言った。
「ファスティナの男を見る目は厳しかったぞ。快い解答が帰ってくるようせいぜい修行するのだな。」