:::パムラン :::



私は、『パムラン』。


『タルゴ』は私を抱き締めてくれる人。
私に話し掛けてくれる人。
私を連れて行ってくれる人。
タルゴは私の『お母さん』。


「私は貴方を本当の母親じゃないけれど、
 貴方は大切な私の子供よ。」


タルゴはそう言ってた。
でも私にはなんのことかは解らない。
ただ解ったのは、
タルゴはやっぱり私のお母さんで、
お母さんじゃなくてもお母さんなこと。

タルゴはたくさん知っている。
たくさん『言葉』を知っている。
タルゴは私に『言葉』を教えた。
でもどんなにやっても
『言葉』は私から出てこなかった。

『言葉』だけじゃない。
私は『色』も解らない。
タルゴが言うには、
物には『色』が存在するのだ。
でもどんなに触れてみても、
『色』は解らなかった。

タルゴはとても優しい。
タルゴはとても柔らかい。
タルゴはとても暖かい。
例えタルゴの背中に私みたいな羽根がなくても、
私はタルゴがすごく好き。

でもある日、
私はタルゴじゃない誰かに外へ連れ出された。
そして、私の知らない所に置かれた。
その人の足音は次第に遠ざかって、
私は1人で置いて行かれた。
タルゴがそのうち来るだろうと思って、
ずっとそこに座っていた。
でも、タルゴは来なくて、
辺りは肌寒い夜になった。

タルゴは私が嫌いになったのか。
私が勝手に好きなだけだったのか。
そうやって考えていたら、
何時の間にか眼が熱くなって、
ゆっくりと水が溢れた。
ほほをつたって、顎から落ちて服を濡らす。
これは教えてもらわなかった。
こんなのははじめてだ。
とめたくて、でも止まらなくて。
手でおさえても止まらなくて。
しばらくずっと、
私はそのままでいた。


「君、どうしたの?」


柔らかい男の声。
私の知らない、タルゴじゃない声。
その声を聞き逃さないように、
顔を声のするほうへ向ける。


「なんで泣いてるの?
 さみしいの?」


私のほほを撫でて、水をぬぐう。
私は『泣いて』いたのか。


「・・捨てられたんだね。」


捨てられた・・?
私、タルゴに捨てられた?
私、『いらない物』だったんだ・・・


「悲しいんだね。」


悲しいの?私・・
悲しいから、止まらないの?


「僕はメルディスっていうんだ。」


メルディス。
メルディス。
メルディス。
3回繰り替えして、その名前を覚えた。


「一緒に連れて行ってあげるよ。」


私の手を取って、立つように誘導する。
私が立つと、紙が一枚落ちたような音がした。


「ん・・?」


紙には私のことが書いてあるらしく、
メルディスは私の名前を呼んだ。


「そうか、君、パムランって言うんだね。
 一緒においで、パムラン」


私の手を握って、メルディスは歩き出した。
遅れないように足を動かす。


メルディスの手はタルゴと違って少し強い。
そして大きい。
すっぽりと私の手を包む。
私はメルディスが嫌いじゃ無い。
メルディスはとても優しいし、
とても大切にしてくれる。
時にはタルゴと同じように。
時にはタルゴ以上に。

・・でもね。
それでも私は、
もう一度タルゴに会いたい。



タルゴ・・・・