暑い。
暑い厚い篤い熱いあついアツイ亜都…。
「…うざいですよ。」
「だぁ〜〜って、こんなに暑いんだもん、愚痴りたくもなるよぅ…」
ストレシアの砂漠を、エルフの青年と妖精がぎゃあぎゃあ騒ぎながら進んでいる。もっとも、青年に妖精が一方的につっかかる様相ではあったが。
「……水の精霊ならその程度自力でどうにか出来るんじゃないですか?」
「…そういえばそうだったよね。」
自分が精霊である、という重大な事実を度忘れしていたこの妖…もとい小さな精霊の名はユリシーズ。そして、漸く静かになった連れ合いには目もくれずに黙々と砂を踏みしめる青年はエドワルド=リーディオ…と今は名乗っているフェルベルトである。薄い水の幕で身体を覆い、何がご機嫌かわからないが鼻歌まで自分の歌い出す彼女を、彼は心底嫌そうに横目で見やり…。
ばしゃ。(無情にも振り下ろされた手が水幕に叩き付けられた音)
べちょ。(顔面から砂に緊急着陸した音)
叩き落した。これでもか、というほどに力を込めて砂に沈めた。更に足でグリグリと…
「うがぁ!!なぁにするんだよこのスットコドッコイ!?」
足元から勢いよく立ち上る水柱を完全に無視、怒声を背後に再び歩き出すエドワルドに気付かず、ユリシーズが水柱の中でも篭る事のない声で延々とやり場のない怒りをぶつける。
「そもそもエドって私がせーれーだって思ってないでしょおもってないよね!?じゃなきゃこんな事しないもんっ!!そりゃこぉんなナリだから私だって時々忘れるけど…ってエドぉぉ!!待ちなさぁあいっ!!」
背後から迫るぃやかましい声を意図的に無視しながら、どうしてこうなったかを真剣に思い出していた。……歩く速度を確実に速めながら。
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「はぁ、いたづら妖精…ですか。」
「そ。実害はないからあんまり騒ぎにはなってないらしいけどね。」
よく日に焼けた風貌の女性は得意げにエドワルドに語り、琥珀色の液体を一気に飲み干す。
ここはユーラストルの、とある酒場。年初めにやらかした大喧嘩以来、未だに相棒のフォルスとはぐれたままのエドワルドは仕方なしに情報屋に接触…それが今彼の目の前でちょっと高めのボトルをぐいぐい空けているミーニアだった。
「…で?」
「で、って。後はその妖精の容姿くらいしか聞けなかったし、そんだけだけど?」
「そですか。…で、本命のお仕事のほうは?」
笑顔のエドワルドから露骨に目を逸らし、空笑いをするミーニア。…直後、鈍い音が酒場中に響き渡るのであった。
大きなこぶをこさえてテーブルに突っ伏す情報屋を放置し、さっさと酒場を出るエドワルド。勿論支払いは彼女に押し付ける事を忘れない。この街周辺のどこかのオアシスにいたづら妖精が出る…先程ミーニアから聞き出した情報は要約すればそうなる。もっとも肝心要のワイバーンの目撃情報はカケラも入手できなかったのだが。
気を取り直し、件の妖精の情報の裏を取る事も兼ね、雑然とした人ごみを縫うように掻き分けながら斡旋所へと足を運ぶ。やや薄暗い屋内の壁にはいつも通り大小様々な依頼覚書が貼り付けられていた。ざっと目を通すも、昨日と同じくワイバーンはおろか妖精のよの字に関係したものは一切なく相変わらず用心棒や隊商の護衛といったものばかり。
「よう!兄ちゃんエルフかい?」
突然かけられた声に振り返ると、「カタギじゃないですぜダンナ!」な容貌の男が数人にやにやと笑いながらこちらを見ていた。
「…そうですが、何か?」
内心の警戒をおくびにも出さず、エドが人好きのする笑みを浮かべ応えると、
「じゃ、トーゼン魔法も使えるんだな!いやぁ、実は俺達ここいらに出るっていう妖精を捕まえに来たはいいんだがよぉ…どーにも上手くいかねぇ。そこで…だ、兄ちゃんを男と見込んで頼む!俺達と来ないか?報酬は出来高払いになるが、どうよ?こんな場所の来てンだ、金に困ってんだろ?」
と、見たこともない自分の腕を見込んで一緒に妖精を捕まえよう、と誘ってきた。見るからに胡散臭そうな連中の誘いに、普段なら一蹴しているエドだが。
「…いいでしょう。で、何時からですか?」
「お前がよけりゃ、今すぐでも行くぜ。準備とかはいいのかよ?」
「ええ……では、行きましょうか。」
先頭を歩いていた男が指を指す。
「ほれ、あっこに見えるオアシスに、出るらしいぜ。んじゃ兄ちゃんは先に行って妖精の注意を引き付けてくれ。捕まえられそうなら捕まえてくれても全然構わねぇけどな。」
そう言い放ち、男達はバラバラに散っていく。どうやらエドを囮にオアシスを妖精に気取られずに包囲・捕獲というのが作戦らしい。内心、魔法は特に関係ないですねと思いながら一直線にオアシスへと向かう。大方、御しやすそうでひ弱そうに見える自分だから雇ったんだろう、と見当をつける頃には澄んだ水を湛えた池はすぐ足元にまで迫っていた。そして、噂に従い1ラージ銅貨を投げ入れ…いや、手首のスナップを使い水面切りの要領で更に石を投げる…。
「あなたが(ごちっ)…ぁぅっっっっっ!!」
水中から現れた女性のおでこにクリーンヒット!器用に水面を転げまわる様子から、普通の女性ではないようである。そしてポン☆、とコミカルな効果音と同時に、
「なぁあにするのかなぁキミはっ!?出会い頭に投石なんかしちゃ駄目っておかーさんは教えたはずよぉ!!」
勢いよくエドワルドへ飛んで行く小さな人影…即ち、妖精。そしてその小さな身体を、むんず、と難なく掴み、
「誰が、誰を、育てたですって?ん?よく聞こえませんねぇ…?」
「ちょっ、タンマタンマぁ!?ギブギブ、ギブだったらぁギブぅ!!!」
にこやかに微笑みながらギリギリ、と徐々に力を込めて握り締める…まさに悪魔の所業。小さな手でばしばしと降参の意を込めて何度もタップするも、エドワルドは一向に力を抜く気配はない。それどころか更に力を入れる始末…。
「ごめんなさいぃ、キミを育てたのは私じゃなくってキミのご両親ですぅぅ、だからこの手を離してえぇぇえ!!」
ついに泣きの入った妖精を、エドワルドは漸く開放してやる。身体の節々をさする妖精に、
「冗談は時と場合を選びましょうね?」
あくまで穏かに語りかける。
「ひぃっ!?」
ぐぁしっ。
「こら、何もそんなに怖がらなくてもいいじゃないですか?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいもうしませんだからにぎるのはやめてぇぇ!!!」
本気で泣き出した妖精をとりあえず再び開放した、丁度その時。
「おいおい、放してどうするよ放して?キチっと捕まえておいてくれなきゃいかんだろうが、ん?」
オアシスの周囲に、十数人ほどの男達が現れる。彼等の手には網や物騒な代物がひぁっていた。咄嗟にエドにしがみつき隠れる妖精を、嫌な笑顔で見ているリーダーと思しき男がエドに話し掛ける。
「随分なつかれてるじゃねぇか…流石俺が見こんだ事はある。さ、早くソイツをこっちによこしな。」
硬貨の詰まっている、と思われる革袋をジャラジャラとゆすり報酬をアピールする男。
「ねぇ…キミもあいつらの仲間なわけ?」
「見ての通りですが?」
素早く妖精を右手で捕らえ、エドが男へと歩み寄る。
「…助けてよぉ。あんなのに捕まっちゃ私きっと殺されちゃうよぉ。」
男まで、あと十数歩
「ううん、きっとその前にあ〜んな事やこ〜んな事されてお嫁にいけない体にされちゃうんだわ!」
あと、六歩。
「ねぇねぇキミも男、ううん漢ならあーんなムサイ親父なんかじゃなくてとーぜんキュートでプリティーな私を助けるよね?ね?ね!?」
あと、三歩。
「……そういやぁキミ、どっかで会った事「…少し大人しくしてなさい。」へ?わきゃぁ!?」
丁度男の目の前で右手の妖精をザックに押しこめながら革袋を持った手を左手のナイフで切り裂き、緩んだ手から袋を掠め取る。直後振り下ろされ身体を捻り、すれ違いざまに鳩尾に拳を入れる。倒れ臥すリーダーを見、男達が各々の得物を掲げ、エドへ一斉に殺到する。
「まぁ、ハナっから裏切る気でしたから別にいいんですけどね…。」
想像通り、革袋の中身が金属片だけであったことに対するエドのぼやきは、男達の上げる怒号によって瞬く間に掻き消されるのであった。
さて、問題なく男達を塵も残さず殲滅。ザックを逆さまににゆする、と…夥しい量の水と共に妖精がうつ伏せに流れ出て来る。
「…んのおおおぉぉぉ!?」
大慌てで妖精を起こ…………さず、ザックの中身を乾いた砂上にぶちまけるエド。するとまぁ出るわ出るわ、剣やら斧やら果物やらふやけた干物やらヤバそうな液体の入った小瓶やら謎の物体やら…あの小さな袋によくもまぁこれだけ、と呆れるほど大量の荷物が全て水浸しとなって小山を築いていた。
「なぁにさらすんじゃこの虫ぃ!!てめーのおかげで俺の荷物がパーじゃねぇか、あぁ!?さあ乾かせすぐ乾かせ今すぐキリキリと乾かせぇぇぇ!!?」
突っ伏す妖精を拾い上げ、ギリギリで握りつぶさない絶妙な握力で締め上げる。……流石にそのまま泡を吹き始めた頃には開放したのだが。
「全く、無茶苦茶するねキミは…。」
「貴方が余計な事ばかりするからです。」
それから暫くして。漸く息を吹き返した妖精に荷物の全てを乾かせたエドは今、ザックに膨大な量のそれらを片付けている最中であった。妖精のほうはそれを空中で見物しながら、しきりにエドの事を見ている。
「…勝手に触らないで下さいよ?」
「ぶぅ。そんな事しないもん!ところでさっきも言ったケド、キミどこかで私と会った事ない?」
振りかえりもせず一心不乱に砂地の荷物を整理収納しながら。
「その前にお名前をまだ伺ってないのですが?…私の事はエドとでも呼んでください。」
「じゃあ私はユ…−リよ。とりあえずまぁ、よろしくねエド!」
ニパッと笑いかける。雰囲気で察したのかエドが振りかえり、
「自分で言うのもナンですがよくもまぁ、あんな事をした私にそんな顔を出来るものですね。」
とても私にはできない事ですよ、と収納を再開するエドの周囲ををそうなんだぁ、とふよふよ漂いながらユーリと名乗った妖精は相槌を打つ。そして、丁度日が地平線に隠れ始める砂漠でも比較的過ごしやすい時間帯の中、漸く全てを収納したエドがユーリに尋ねた。
「で、何時までココに居るおつもりで?ここまで有名になったのです、今回のような事が今後頻繁に起こると予想されますが?」
「え〜と、キミさえよければ暫く憑いて行きたいんだけどいいかなぁ?」
「……ニュアンスが微妙に違うような気がしないでもないですが…まぁいいでしょう。ただし、くれぐれも私の邪魔はしないように。」
「ありがと。じゃ、当分の間よろしくぅっ!」
そして、夕闇の迫る砂漠をその肩に妖精をちょこんと乗せたエドワルドが足早にユーラストルへの帰路についていた頃。
フォルスは…。
「ああっ、去年分の牧草が食い尽くされる!!??」
「あ、あんたぁ、早くアレ追っ払ってよぉ!!」
クラリアットの牧場で震える中年夫婦と家畜達が見守る中、ヤケ食いを敢行していたのであった…。
「ところで、あのオアシスは放っておいていいんですか?」
「大丈夫、お姉様がどうにかしてくれるから!」
広大なストレシア砂漠のどこかで、豹頭の獣人がくしゃみをしたとかしなかったとか。
「へぇ〜、このコが噂の妖精さんなんだぁ。」
「えへへ〜。」
その夜宿屋にて。ミーニアはユーリと戯れながら別れていた間の出来事をエドと話していた。そして、クラリアットにワイヴァーンが出たという噂が話題に上る。
「で、どうするの?やっぱクラリアットまで行くわけ?」
「当然。食い意地の張るワイヴァーンなんて早々居ないハズですし。」
肩を竦め、得体の知れない干物を齧りながらエドがそう応える。と、それまでユーリと遊んでいたミーニアが身体ごとエドに向直った。
「そーいやさ、このコ絡みで『蒼い団長』とかゆー連中がこの辺うろついてるらしいよ?」
「…何ですかそのネーミングセンスゼロの集団は?」
ジェイド程でもないが、と内心思いつつもその集団についての情報を求めるエド。
「ん〜、確か密猟団だったかなぁ?なんでも『赤い道化師』よりも上と自称してるリーダーのネジェってヤツのネーミングらしいんだけど、一体何が上なんだか?」
「阿呆さ加減ですよ。絶対。」
「…そうか「ちがぁぁぁぁぁっっっう!?」キャ!?」
突然窓枠を破壊して男が雄叫びを上げながら転がり込んで来る。それに続き、数人の男達が扉を蹴破り、押し入って来た。そして、木屑まみれの男が徐にポージングを決めながら立ち上がる!そしてその風貌は…。
(まぁ、確かに「団長」っぽいなぁこいつら。)
全員が全員、青い燕尾服とシルクハットをキチッと着こなし、各々が青いステッキを所持。そして地毛か染めたかはわからないが真っ青のちょび髭。各人の目と肌を除けば見事に全員が「青い団長」であった。
「墳!どうやら驚きと恐怖のあまり声が出ないようだなっ、破!!」
((いや、呆れてるんだって。))
唯一、青いビキニパンツと蝶ネクタイ、そして豊かな青い長髪の中年がむさ苦しいポージングを決めながら一人悦に入る。
「違うぞ団長一号!俺のあまりにもすンばらしいジェントルメンっぷりに感動しているのだ!!」
「それこそ貴様の勘違いだ団長四号!一号のエセマッチョではなくこの私の漢っぷりに目を奪われているのだ!見よこの服の下から盛り上がる真の筋肉を!!」
「ふざけるな団長二号!貴様の筋肉は、ヌン、薬によって得られた偽りの筋肉っ!!弛まぬ努力とトレーニングの積み重ねによってこの体を得た、ハイっ、この団長一号たる私こそが真の漢だぁっ、ほぉう!?」
何やら言い争いを始めた三人の団長を尻目に、残る二人が申し訳なさそうにエドとミーニア、ユーリに近寄ってくる。
「いやぁ、すいませんねぇ。ああなっちまうと朝まではあんな感じなんです。あ、ワタクシ団長三号とお覚えください。」
やけに腰の低い態度の団長三号と名乗る男が、革袋の口をその中身を見せびらかすようにこちらに見せながらにこやかにエドに話し掛ける。が、その視線はエドの背後に隠れているユーリに注がれていた。
「昼間はどうもすみませんでしたねぇ。こちらで雇ったクズどもがそちらに大変失礼したようで…。慰謝料込みでここに二万ラージ分の金貨をご用意しました。」
言いながら、、テーブルの上に金貨をぶちまける団長三号。
「ほら、このとおり全て本物です。…勿論そこのかわいらしいお嬢さんと引き換えに、ですけど。」
エドの袖につかまっているユーリをつい、と見ながら三号はエドに促す。
(ねぇねぇ、本気でこんな胡散臭いのにユーちんを渡すワケ?)
(それを言うなら裏家業は皆胡散臭いですって…。まぁ黙って見ていなさい。)
「はい、それでは…。」
「え゛?」
ユーリを掴み、団長もどき達の怒声をバックに三号へと引き渡すエド。そして右手のユーリと交換に、エドは金貨袋を受け取った。そのまま部屋を出ようとするエドの肩を、三号が思いのほか強い力で掴む。
「これは、どういうことですかな?」
ユーリを捕らえている己の掌中を視線で指しながら詰め寄る。その掌中には「ゆりしーず」と書き殴られた縫いぐるみが何時の間にか収まっていた。薄く笑い、肩を掴む手にナイフを突き立てながら、
「こういうことです、よ!!」
ミーニアを引き寄せ、三号へと思いきり押し出す!三号が体勢を崩した僅かな隙にザックを引っ掴み団長達が開けた壁の大穴から素早く身を躍らせる。そして宿を囲んでいた有象無象を蹴散らし闇の砂漠へと姿を消すのであった。
「っはぁ!!」
それから、小一時間ほど。もぞもぞとエドのザックから這い出したユーリ…もといユリシーズがちょこん、とエドの肩に止まった。
「いやぁ、『また』助けてもらったね!やっぱり君はボクの運命の人なんだっ♪」
「……はて、以前どこかでお会いしましたか?」
「とぼけたってムダムダ!君のニオイはあの時しっかりチェック済みなんだからねっ。」
「(…ストーカー妖精?)いや、本当に記憶にないんですが…。」
むぅ、とむくれる妖精を宥めながら聞き出した内容は…。
(…あん時ですかぁ。そりゃあ覚えてないわけで…。)
どうやら地獄の修行コースからの逃亡の真っ最中に、何の偶然からかこの妖精を助ける形になっていたらしい。
「それにしても…随分前の話ですよ?個体として長寿な妖精というのもあまり聞いたことはないんですが…。」
そういぶかしむエドの顔の前で滞空しながら、無駄に偉そうな態度でユーリが語り出す。
「聞いて驚くのだっ!このユリシーズちゃんは君を探すために妖精から精霊になったんですよこれが。どう、嬉しいでしょ〜??んでね、精霊と言っても普通の精霊じゃないんだよ?契約型っていうフツーとは一味も二味も違うのよ!あ、どこが違うっていうツッコミはなしね。んでね、え〜と…ってくぉら!!」
かなり先に、月明かりに反射する金髪が揺れている事に気付き、大慌てで追いつき自分を置いてきぼりにしたエドにかみつくユーリ。
「人が、話している、んだから、大人しく、聞くのが、礼儀なんじゃ、ないかな!?」
「…いや、こちらがキミにあわせる必要性は感じられないんですが。」
その本音は、なんとなく修羅場っぽくなりそうなので逃亡を図っただけなのであるが。
「むぅっ!ともかく契約よ契約っ!そして二人でン千年の永い時を一緒に添い遂げましょう!?さぁ、さぁさあさあ!!!!」
「ちょっ、待っ!?」
エドも引くほどの凄まじい勢いでユーリがずずぃっと迫る!
「け、契約って何するんですか?」
とりあえずこの場から逃亡しようと適当に話題をふりながら、エドは機会を待つ。
「ん〜、長ったらしい口上の後でお互いが承諾すればおっけ〜。何なら代わりにキスでもそれ以上でもいつでもどこでもOKだけど?」
「いや、私の恋愛対象は普通の人間サイズの方ですので遠慮します。」
途端、例のコミカルな音とともに見た目麗しい女性が現れた!
「これならOKだよっ。…三分しか維持できないケド。」
「……いや、三分でナニが出きると?」
「むぅ、そこは愛と気合と根性でっ!!」
「キミは私に男としての尊厳を捨てろ、と?」
そのまま暫く謎な会話が続き…。
「…ともかく!いろんな意味で私とキミはつりあわないので。ぢゃ!!」
そう言うなり砂上とは思えないほどの速さでエド…フェルベルトが駆け出す!
「ああっ、待ってよぅ!」
ユーリも妖精の姿に戻り、中々の速さで追いすがり……。
(結局振り切れなかったんでしたっけ…。)
深く被ったフードの下で、一人ごちるフェルベルト。その後ろからはぶぅぶぅ言いながらユリシーズがついてきている。
(…愛されて、いるんでしょうかね?悪い気はしないんですが…ねぇ?)
文句を言いながらも、しっかり付いてくるユーリをこっそり見ながら苦笑する。このまま彼女の気持ちに応えるのも悪くは、ない。だが、己の長い人生、この先どのような出会いがあるかはわからない。だから…。
(少なくとも当分、首を縦に振るわけにはいきませんねぇ。)
あっ、という声を後ろに聞き流しながら再び、前ぶれなく熱砂の上を駆けるエドであった。
「もうっ、簡単には逃がさないんだからぁ!ユーリ、頑張るもんっ!!」
ふはぁ、何とか一段落です。最初にフェルベルトがユーリを助けた(?)シーンはいづれ書くつもりですのでそちらもよろしくです^^;あぁ、何とか年内に形に出来た…。
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